43歳以降の転職で今以上に賃金が上がる保証は何もない
もう1つの問題点は、退職所得課税の優遇措置が発生するのは勤続21年目、大卒入社であれば43歳以降であることだ。仮に退職金控除の優遇策を廃止し、中高年に「転職しなさい」と背中を押しても、今以上に賃金が上がる保証は何もない。
確かに近年は40歳以上のミドル世代の転職者が増加している。リクルートの調査(2025年3月25日)によると、2024年の転職者数は2014年に比べて40、50代は6.05倍に増えている。内訳は40代が5.23倍、50代は12.11倍と50代の伸びが顕著だ。
ただし、絶対数はそれほど多いわけではない。マイナビの「転職動向調査2025年版(2024年実績)」(2025年実績)によると、正社員の転職率は、40代男性は全体の6.2%、50代男性は3.6%にとどまる。40代男性は23年に比べて0.3ポイント増加しているが、構造的な人手不足を背景に採用対象を中高年に広げている企業が多いこともあるだろう。
前述した、転職できても誰もが前職より給与が上がるわけではないということに関しては、リクルートの調査(2024年9月30日)を見てみよう。
これによれば、前職と比べ賃金が1割以上増えた人の割合は2023年度で全体の35.0%、40、50代は27.4%だった。せっかく転職活動しても、それほど増えない。
むしろ、70%前後の人が前職と同額ないし下がるといったほうがいい。とりわけ40、50代の27.4%については「ミドル世代でも転職時に賃金が増える方も多いIT系エンジニアの転職者などが、こうした傾向に寄与している」と分析している。非ITで給料上昇は期待薄だ。
年収ベースでもチェックしてみよう。前出のマイナビの調査によると、40代男性の平均は前職の559.1万円から593.5万円にアップしているが、50代男性は587.8万円から585.5万円と転職後の年収が下がっている。
もう少し細かく見ると、40代男性の転職先は従業員300人以下の中小企業が59.3%、50代男性は63.1%を占めている。実は前職も40、50代ともに中小企業が60%超を占めている。前職が従業員1000人以上の企業の出身者は20%程度である。
大企業の社員は労働者の3割といわれるが、その比率を下回り、中高年の転職者の主流は中小企業の正社員であり、しかも転職後の年収で900万円以上の人は40代男性が14.1%、50代男性は9.2%にすぎない。もちろん、仕事は給料がすべてではないが、転職で人生が楽になるとは限らない。