割増退職金をもらって辞めた人ほど転職に失敗する
そうした中、中高年の転職先として注目されているのがスタートアップ企業だ。組織体制が脆弱なこともあり、人事・経理・法務といった管理部門でのニーズが高い。
2024年1~7月の40代以上の新興企業への転職件数は2年前に比べて78%も増加している(エンジャパン調査)。転職後に年収が増えた割合は2019年の22%から50%に増えている。
ただしリクルートの調査(2024年9月17日)よると、2023年度の転職時の提示年収400万円未満が41.5%、400万~600万円未満が40.2%と、600万円未満が80%超を占めるなど、それほど高いとはいえない。
以上の事実を整理すると、中高年の転職市場は中小企業の社員が多くを占め、転職後の年収は上がる人がいても、大企業の水準よりも低く、大企業から転職しても前職の年収よりも下がる人が多いということがわかる。
大企業の中高年の転職の理由で多いのが希望退職者募集に応募したリストラ組だ。中高年の転職支援を行っている人材コンサルタントはこう語る。
「この5年の間に希望退職で辞める人、あるいはM&Aのあおりを受けて事業の整理で辞める、倒産で辞めざるを得ない会社都合で退職する50代が増えている」
ただし、割増退職金をもらって辞めた人ほど、転職に失敗する人が少なくないという。
人材コンサルタントは続ける。
「大企業の製造業で年収1500万円もらっていた元部長は、最初に年収1000万円で雇ってくれるところを探したが、100社受けても落ち続けた。失業期間も1年を過ぎ、500万円で雇ってくれるところはあったが、さすがに前職の3分の1ではプライドが許さず、探し回ったが見つからず、失業2年後に見つかったのは時給1000円(当時)の駐車場の警備員しかなかった」
大企業勤務時代の蓄えや割増退職金があり、必死に稼がなくてもよかったため、時給1000円の仕事を引き受けたのかもしれないが、低待遇でも働かざるをえなかった可能性もある。確実に言えるのは、大企業の社員が前職の年収を基準に転職活動するのは危険ということだろう。
「人手不足のために40、50代でも採用せざるをえない企業も多い。当然ながら給与は30代の人と同じ年収になる。500万円でも御の字ということだ」(人材コンサルタント)
もう1つ、石破政権の雇用流動化や転職推進策で危惧されるのは、それを免罪符に従業員のリストラに走る企業を誘発することだ。
上場企業の早期・希望退職者募集が2024年は1万人を超えた(東京商工リサーチ)。しかも直近決算の黒字企業が約6割を占めている。今年に入っても日産自動車がグローバルで9000人の削減を表明しているほか、ウシオ電機、ユーグレナなどの企業が人員削減を公表している。
今後の行方について東京商工リサーチは「経営環境が不透明さを増し、将来を見据えた構造改革に着手する企業が増えており、2025年も上場企業の早期・希望退職の募集が加速する可能性が高い」としている。
前述したように日本の転職市場はいまだ脆弱であり、失業給付などのセーフティネットもヨーロッパに比べて不十分だ。
政府が雇用流動化政策や転職を煽っても、恩恵を受けるのは転職支援会社などの人材サービス会社や、リストラを推進したい企業である。中高年社員は転職しても年収が下がり、さらに退職金の課税強化で老後の資産は目減りするという悪循環に陥る可能性もある。