記憶力の衰えを感じたらどうすればいいのか。脳内科医の加藤俊徳さんは「『年齢を重ねて物覚えが悪くなった』と嘆く人がいるが、それは勘違いである。もし『衰え』を感じた場合、脳の成長が滞り始めているサインかもしれない」という――。

※本稿は、加藤俊徳『すごい記憶力の鍛え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

脳とニューロンの3Dイメージ
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テストの成績と脳の発達はまったくの別物

「暗記ができる人=賢い人」

多くの人はそのようにイメージするでしょう。しかし、私はそう思いません。見たもの、聞いたものをそのまま覚えることができる人には、確かに才能がひとつ備わっているといえます。記憶したことを確認するためのテストで良い成績を取れれば、果たして本当に「賢い」のでしょうか?

僕が思うに、同じ「記憶」でも試験に受かることと、脳が発達することは全くの別物です。

この両者の違いの謎を解くためには、そもそも世間一般でいわれている「暗記」について考える必要があります。私は英語が苦手な学生でした。英単語や文法がなかなか覚えられず、周囲はまさに「暗記」ができる学生だらけで、当時はその人たちを崇高な存在に祭り上げて、本当に「賢い」と思っていました。暗記するとは、見たり聞いたりしたことが、脳に記憶として定着することです。ところが暗記しているか否かはヒントなしでスラスラと思い出してみないと自覚できません。

教科書や参考書などの本の文章を見ている時は覚えられる気がするのですが、いざ試験を受けると暗記力の差が歴然とするのです。

脳科学的に優秀なのは「長期記憶」

さらに、私と賢い学生との差はまず、その英単語を覚える時間にありました。私が1日何時間もかけて覚える英単語を、丸暗記が得意な学生は10分程度、時には一度で覚えてしまう。その時間の差は確かに大きいといえるでしょう。

時間的な視点で見たら、瞬間的に覚えられる人が優秀だとなるかもしれませんが、脳科学的な視点で考えると、どちらがより優れているでしょうか。結論からお伝えすると、長期記憶の方が脳科学的には優秀となります。

記憶には、短期記憶と長期記憶があり、どちらも記憶を司る「海馬」を働かせることで物事を記憶しています。

記憶は時間とともに薄れるものと、長期記憶化して「一生もの」として身につくものがあります。海馬がしっかり働く時間が長ければ長いほど記憶に定着しやすいのです。脳科学的に見ると、私のように英単語を覚えるのに時間がかかる人は、勉強にかける時間も必然的に長くなるため、英語力が「一生もの」になりやすいといえるのです。

学生時代でしたら、短時間での「丸暗記」は、試験の点を取ることには役立つでしょう。しかし、我々中高年の大人は時間をかけて覚えた方が、長期記憶として適切に情報を取り出すことでより優れた結果を残せるでしょう。

テストで効果的にいい点を取れる「従来型の暗記」と、“脳科学的な視点から見た、本当に頭のいい人”がしている「真の暗記」、これら両方のメリットを最大限に活かすための方法をこの後、解説していきます。