実は頻繁に起きている陥没事故
2025年1月28日、埼玉県八潮市で県道が突然陥没し、走行中のトラックが転落する事故が起きた。道路に空いた穴にトラックが落ちる瞬間の映像がテレビに流れるなど、国民は悲惨な事故を目の当たりにすることになった。老朽化した下水道管が損傷してそこに地中の土砂が流れ込み、大きな空洞が生まれて、一気に地盤が沈み込んだためと見られている。
その後も下水の流入が続いたためだろう。陥没は見る見る間に大きくなって、トラックの運転手を発見するまで何日も要する事態になっている。周辺住民に避難や、下水道の利用制限を呼びかけるなど、大混乱に陥った。下水道のような直接目に触れない場所での設備の老朽化に関心が向くことは稀だ。だが、こうした設備の老朽化に伴う陥没事故は実は頻繁に起きている。
国土交通省の調査を報じた読売新聞の記事によると、こうした下水道管に起因する道路陥没は、2022年度だけでも2607件も発生しているという。大半は深さ50センチ未満の小規模なものだが、1メートルを超える規模の陥没も50件以上発生しているという。
「耐用年数50年」=「50年間安全」ではない
国交省は2010年前後から、下水道設備の老朽化対策を計画的に行う「ストックマネジメント」を掲げている。2017年度末のデータでは47万キロにのぼる全国の地下管路のうち、財務省などが定めた「耐用年数」である50年を経過したとされるものは全体の4%にあたる1.7万キロにのぼる。しかし、50年という耐用年数は会計での経費計算や税金計算に使う「机上の理屈」で、実際に50年間、安全だというわけではない。
実際、議論が始まった初期の2011年の審議会の資料には「下水道の管路施設は、布設後約30年を経過すると道路陥没などの事故を起こす割合が急激に増加することがわかってきている」としていた。前出の2017年時点のデータで、30年を経過した管渠は、15万キロにのぼるとしており、これは全体の32%に相当する。つまり、全国いたるところで老朽化した下水道を原因とした道路陥没事故が急増してくることは、すでに予測されていたことだったのだ。
家庭や工場などから排出される汚水を集める下水道は「公共下水道」と呼ばれ、主として市町村が建設、管理している。下水道を使う住民や事業所から使用料を徴収して汚水処理の経費に充てている。また、複数市町村の公共下水道の下水を集め、まとめて処理する広域的な下水道を「流域下水道」と呼び、こちらは主に都道府県が建設して管理する。八潮市で起きた陥没はこの流域下水道だったと見られている。