埼玉県ですら下水道事業は赤字
埼玉県がまとめた「埼玉の下水道2023 安心・安全支える下水道」によると、汚水の処理にかかっている経費は公共下水道分だけで年間761億円。このうち使用料で712億円が賄われている。埼玉県のような人口が密集している地域でも、下水道事業は赤字なのだ。つまり、利用料では賄えない分を税金で賄っているわけだ。
下水道の利用料計算には設備が老朽化していく分を経費計上する「減価償却費」が加えられている。だが、この計算の前提は法律などで決まった「耐用年数」が基本で、下水道の場合は50年になっている。だが、前述のように実際には50年より前に設備の限界がやってくるケースが多いので、減価償却費を積み立てたもので新しい管路に交換する資金が賄えるわけではない。そうなると都道府県や市町村の財政支出に頼ることになる。
2022年度の埼玉県内の下水道建設事業費は638億円、1998年には1800億円近くが使われてきたが、ここ20年は600億円から800億円で推移している。地域財政が厳しさを増す中で、下水道の設備投資に潤沢な予算を投じる余裕がどこの自治体もなくなっているわけだ。
2012年12月に起きた「笹子トンネル事故」
インフラの老朽化を懸念する声はこれまでも出ていた。2012年12月2日には山梨県の中央自動車道笹子トンネルで、天井板のコンクリート板が138メートルにわたって落下、走行中の車3台が下敷きになって9人が死亡するいたましい事故が起きた。原因は老朽化だけでなく、施工時からの強度不足や管理不足などが複合的に影響したとされたが、世の中の関心を「インフラ老朽化」に向けさせる大きなきっかけになった。
2012年12月26日に発足した第2次安倍晋三内閣では「国土強靭化担当大臣」が置かれた。2011年に起きた東日本大震災を教訓に事前防災の観点から国土の強靭化を推進するとされたが、発足直前に起きた笹子トンネル事故を契機に、インフラ老朽化への対策が検討されるようになった。
2013年に成立した国土強靭化基本法(「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」)の基本方針では、今後の国の施策として次のような一文が入った。
「人口の減少等に起因する国民の需要の変化、社会資本の老朽化等を踏まえるとともに、財政資金の効率的な使用による当該施策の持続的な実施に配慮して、その重点化を図ること」