インフラの老朽化対策は最大の課題になる
つまり、社会資本、社会インフラの老朽化に重点的に取り組むことが明記されたわけだ。これによって公共事業費を予算計上する論拠にはなっているが、新しい道路を作ったり、橋を架けることに目が向きがちで、古いインフラの更新という地味な作業にはなかなか資金が回らない。それこそ、耐用年数が迫ってきたり、設備の老朽化で事故が起きるなどの事態に直面しないと、先送りされがちになる。
選挙民からは、新しい橋を架けてほしいという要望は出ても、トンネルが古くなったので補修してほしいという要望はなかなか来ない。政治家も同様に、新しいモノを作ることは公約にしても、古い設備を補修しますというのは選挙民には受けない。自治体の首長にしても同じで、老朽インフラ対策が後手にまわりかねない事情はこんなところにある。
国土強靭化法制定から10年以上を経て起きた下水道陥没事故は、都市部の人口集積地のインフラでも老朽化が進み、事態が深刻度を増していることを示した。
「中長期的に見ると、インフラの老朽化対策が最大の課題になってくると思います」と首都圏の政令指定都市の幹部は言う。人口減少が本格化する中で税収も増える見込みが立たず、老朽インフラに投じる資金捻出が難しくなると見ているのだ。
このままでは日本の都市部でもインフラ崩壊が次々起きる
2022年1月、米ペンシルベニア州ピッツバーグで道路橋が突然崩落する事故が起きた。路線バスなど計6台の車が巻き込まれ、10人が負傷する事故が起きた。橋は1970年に建設されたもので、50年以上が経過、崩落は老朽化が原因だった。
米国にある橋の4分の1は1960年以前に建設されたものだとされ、補修が必要なものが多い。また、近年の異常気象による急激な温度変化を設計時に想定しておらず、鋼鉄製橋梁の劣化が進んでいるとされる。2050年までに鋼鉄製橋梁の4分の1が崩壊するという研究もある。米国では、インフラの老朽化が深刻な問題になっているのだ。バイデン政権の2021年には1兆ドルに及ぶインフラ投資予算が設けられたが、老朽化した施設の更新は進んでいないのが実情だ。
そんな、インフラ崩壊が、このままでは日本の都市部で次々と起きかねない。そんな予兆を下水道陥没事故は示していると言っていいだろう。今後は、新しい設備の建設よりも、これまでに作ったインフラをどう維持していくか、更新していくかが課題になる。人口過疎が急激に進んでいる地方の山間部にあるトンネルや橋梁などの老朽化が限界に来た時、それを更新していく力がこれからの日本にあるのだろうか。