「塀の中」と「社会」を行き来して「自分が矯正された」との思い

受刑者の処遇が、今年6月から変わる。政府は刑法の一部を改正し、これまでの懲役刑と禁錮刑を合わせて「拘禁刑」という新たな刑罰に一本化する。懲役刑の廃止といっても、刑務作業がなくなるわけではない。木工や洋裁などが義務でなくなり、立ち直りに向けた指導・教育に多くの時間をかけることが可能になる。増加する高齢受刑者のリハビリや、若年受刑者の更生指導を手厚くできるようになる。

あくまでも今回の法改正は、受刑者の属性や事情(高齢化など)などによって、柔軟に矯正プログラムと刑務作業を運用していくための手段だ。「懲らしめ」から「立ち直り」に重きを置いた犯罪矯正の時代を迎えつつある。

また、施設内の規律も緩めていく方向だ。これまで、受刑者は刑務官を「先生」と呼び、刑務官は受刑者を「呼び捨て」にするなど、上下関係が徹底されていた。受刑者への人権の配慮も、時代の変化といえる。

2024年11月1日松本少年刑務所
写真提供=Paix2
2024年11月1日松本少年刑務所

矯正のあり方が変わった背景には、再犯率の高さがある。現在、全国の矯正施設における1日平均収容人数は4万853人(矯正統計調査、2023年)。刑法犯の摘発は2003年以降、減少傾向にあるものの、再犯率は近年50%ほどで高止まりしている。つまり、矯正施設において、懲らしめること以上に、手厚い「再教育」を施し、二度と犯罪に手を染めさせないことが重要になってきている。Paix2のふたりに意見を聞いてみた。

「受刑者に対する『さん付け』などは、法改正の機運が高まってきた数年前から、早くも実施し始めた施設がありました。最初は職員も受刑者も『いや、そういう言い方、言われ方は困ります』というような雰囲気があったのは確かですが、昨年訪れた施設で聞くと、それぞれ適応はしてきている、良い効果も出てきている、などというポジティブな意見がありました」(北尾さん)

「この新しい体制は、彼らが社会に出てからのことを考える上では、大事な流れになっているなと思います。これまで人との交わりが少なかった受刑者が、コミュニケーション力をつけていくということはとても大切ですから。ただ一方で、刑務所ならではの厳しさっていうのもないといけないとは思います。『こんな場所に、二度と帰りたくない』という要素は、私はあったほうがいいと思います。もっというと、施設内での矯正プログラムの重要性はわかるのですが、それでなくとも人手不足の現場で、職員さんがやり切れるのか。机上の議論では理想を語っていても、実際の運用面が心配です」(井勝さん)

Paix2のふたりは「保護司」としての活動もしている。保護司とは犯罪を犯した人の立ち直りを支える非常勤の国家公務員のことだ。全国におよそ4万7000人が活動している。彼らは、完全にボランティアで給与は支払われない。彼女らに任されているのは保護司界の広報を通じて、認知度を高め、社会の関心を向けることなどだ。

保護司は、矯正施設から釈放された者が、スムーズに社会生活が営めるように、住まいや就業などの調整や相談、さまざまな助言などを行い、立ち直りを支援する。強い使命感と忍耐力が必要な仕事だ。保護司の活動は、再犯罪抑制に極めて重要な意味をもつ。だが、2024年には滋賀県大津市で男性保護司が、担当していた保護観察中の男に殺害される事件が起き、保護司界に衝撃が走った。

「これまで、保護司の世界は『現場任せ』だったと思います。きちんと更生していくんだという意識の高い方がいる一方で、中には逆恨みする人もいる。自宅で、1対1で面接することもあり、ある女性の保護司の方は男性と面談するように言われて、さすがにそれは、とお断りされた話も聞きました。大津の事件は痛ましいことでしたが、保護司界の改革につなげていってほしいです」(北尾さん)

2024年11月1日松本少年刑務所
写真提供=Paix2
2024年11月1日松本少年刑務所

四半世紀にわたって「塀の中」と「社会」とを行き来し、社会の暗部に光を当ててきた、ただ唯一の存在であるPaix2。5月24日、鳥取市内で「25周年記念コンサート」を開く予定だという。

「25年間ずっと自分たちで車を運転して、機材を運んで、手弁当でやってきたのですが、活動当初にはちょっと想像がつかないことでした。でも、このスタイルはたぶんこれから先も続いていくんだろうな、と思います」(北尾さん)

「振り返れば、私自身が“矯正”された25年間だった気がします。若いときは、自分のことしか考えてこなかった私ですが、プリズンコンサートを通じて社会のことに目を向けることができ、視野が広がった気がします。大変でしたが、良い25年間だったと思います」(井勝さん)

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