無期死刑囚と対面「時が止まっている」「ここで人生を全うする」と感じた

近年における、印象深いシーンは3年前の岡山刑務所でのこと。岡山刑務所は、無期懲役など受刑期間が長い受刑者を多く収容している施設で知られる。無期懲役囚の多くは、殺人などの重罪を犯した人物である。

「この時、無期懲役の20人ほどの方を相手に、個別で対話する機会が設けられました。当時の所長さんの英断で、サプライズで受刑者と私たちとの接点をもたせようとしたそうです。無期懲役というのは大変な犯罪者なのでしょうけれど、みなさん、真面目で礼儀正しい。ある方は『(昭和41年に日本武道館で開催された)ビートルズの公演に行って以来、音楽が好きになりました』と言っていらっしゃいました」(北尾さん)

「この方たちは、時が止まっているな、この施設で人生を全うするんだ、と覚悟を決めておられるんだなと感じました。誤解を恐れずにいえば、悟りの境地にあるような方ばかり。不思議な感覚になりました。眼の前にいるこの人が、どうしてそんな重い罪を犯してしまったのだろうと。同時に、ただの一方通行のライブを開催するだけではなく、受刑者の皆さんとのコミュニケーションの機会が与えられたことは私たちにとっても、大変、勉強になりました。所長さんは、受刑者のことを本気になって考えて行動されているんだな、と感動しました」(井勝さん)

比較的刑期が短い受刑者は、出所後にPaix2のライブに足を運んでくれたり、グッズを買ってくれたりする。ライブ会場で「あの時、Paix2に励まされ、助けられた」と声をかけられることはしばしばで、その言葉が彼女らの大きな支えになっている。

ライブの様子
写真提供=Paix2
2023年6月29日、月形刑務所ライブにて

四半世紀にわたる活動の中で、「塀の中」はどう変化してきたのか。全国の刑務所を数多く慰問して回った立場として、近年の犯罪傾向を分析してもらった。

「高齢化の波は、着実に刑務所にもやってきています。20年ほど前は、ライブに参加する平均年齢が40代くらいだったと思いますが、今は50代になってるんじゃないですかね。車椅子率も上がっている気がします。受刑者の介護を、受刑者がやるということも増えているようです。一方で少年院は、圧倒的に数が減ってきています。昔は暴走族や暴力団に所属した経験があって、いかにもやんちゃだな、と感じる分かりやすい子たちが多かったですが、今、少年院にいる子どもは、社会の中にいる子とほとんど変わらないですよ」(井勝さん)

2020年1月18日、横浜刑務所
写真提供=Paix2
2020年1月18日、横浜刑務所

「いわゆる闇バイトで、『受け子』をやって逮捕された子たちもいます。経済犯や知能犯といった部類でしょうね。彼らは罪の意識や、善悪にたいする感覚が乏しい感じがします。あと、発達障害の子どもも増えているようです。彼らは加害者である一方で、犯罪組織にうまく利用された被害者でもある気がします。『親元に戻りたくない。このままここにいたい』というケースも多く、彼らにとっては生きづらい世の中になっているなと感じます」(北尾さん)

2020年1月18日、横浜刑務所
写真提供=Paix2
2020年1月18日、横浜刑務所