スポット価格で1MWhあたり「15万円」に
再生可能エネルギーを推進している人たちは、「太陽は請求書を送ってこない」とか、「風はヨーロッパのどこかで必ず吹いているから確実、しかもタダ」などと言っているが、どちらも正しくない。
ドイツの原発や火力発電がちゃんと動いていたころ、国内電力市場での1MWhのスポット価格は40~60ユーロだった。それが今では100~150ユーロと高止まりになっている。それどころか、11月6日午後には、一時的に820ユーロに跳ね上がり、さらに12月13日には936ユーロ(15万円)と新記録を樹立〔欧州卸電力取引所(EPEX)の公表〕。誰が見ても異常な値動きだ。
これが即座に国民の電気代に反映するわけではないにしろ、すでに現在、ドイツの電気代は家庭用も産業用もヨーロッパ一高い(世界一?)。そして、今後もさらに上がっていくことが確実視されている。なぜ、こんなことになっているのか?
ヨーロッパでは電力統合が進んでおり、網の目のように張り巡らされた送電線を通じて、常に電気の売買が行われている。ただ、発電量が細ると、当然、電気は奪い合いとなる。
脱原発の次は脱石炭に猛進しているが…
ヨーロッパでは、毎年、冬に数回、10日間ぐらいずつ、スカンジナビアからポーランド、南はイベリア半島までぴたりと風が止む時期がある。今冬は、昨年11月の初めと12月中旬、さらに暮れから今年にかけてと、3度もそれが起こった。もちろん、この時期は太陽もあまり照らず、太陽光電気は昼間でも限りなくゼロに近い。当然、ヨーロッパ中で電気の値段が高騰した。
その値上がりに拍車をかけているのが、EU一の大国ドイツだ。23年4月に脱原発を完遂したドイツは、現在は果敢に脱石炭を遂行中。昨年の春には400万kW分の石炭火力を廃止した。一方、頼りにしていた天然ガスもウクライナ戦争以来、常に逼迫しており、それどころか、今年からはほとんど入らなくなるともいわれている。つまりドイツでは、お天気に影響されない電源が恒久的に不足している。
そのため昨年の凪のとき、一時、ブラックアウトの危機が迫ったらしいが、一般のニュースはそれには触れず、「ヨーロッパは高気圧の影響で、全体的に霧のかかった穏やかな気候」と報道していた。電力供給に関しては、国民を不安がらせないのが、緑の党の応援団であるドイツの主要メディアの最大の課題だ。しかし実際は、その「穏やかな冬日」には電気が不足し、ドイツのみならず、ヨーロッパ中の電気の小売業者が一斉に調達に回った。