一酸化窒素をつくる能力が高くなる
一方、運動によって交感神経が刺激されるために、前回の記事で述べたカテコラミンが放出されて血管壁が収縮するようになるのですが、上記のごとく、NOを介する血管拡張が同時に起きているので、血圧が上がりすぎることなく、うまく調節され、血管がよく機能するようになります。
ふだんから運動している人の血管の内皮細胞はNOを作る能力が高く、血管をやわらかい状態に保つのに役立っています。
効果③リンパ液の流れも良くなる
また、NOは血管だけでなくリンパ管を包む平滑筋細胞にも働いて緊張を緩めてくれるので、リンパ液の流れも良くなります。
拙著『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)でも述べていますが、免疫細胞は血管とリンパ管の両方を用いてからだ中をパトロールしていることから、運動は血管とリンパ管の流れを良くして免疫細胞のパトロール機能を亢進させ、これによってもからだにいい効果をもたらします。
最近の研究でわかってきたこと
効果④血糖値が下がる
これに加えて、運動によって骨や筋肉からからだにいい物質が放出されることが最近わかってきました。たとえば、筋肉運動によって骨の中にある骨芽細胞から「オステオカルシン」という物質が放出されます。※
※ Karsenty G, Annu Rev Nutr, 43:55, 2023.
オステオカルシンはすい臓に働いてインスリンを作らせます。インスリンは細胞のグルコースの取り込みを促進して血糖値を下げる役割があるので、運動による血糖値の低下に一役買います。
効果⑤脳が活性化する
オステオカルシンはまた、男性では睾丸に働いて筋肉量や筋力増強をもたらす男性ホルモン(テストステロン)を作らせます。脳の活性化にも役立ちます。
効果⑥全身の臓器の機能がアップする
また、運動によって筋肉から「マイオカイン」とよばれる種々の生理活性物質(サイトカイン)が放出され、全身の臓器に働いてその機能調節をします。
このように、なぜからだを動かすことが健康にいいのかが、分子レベルで次第にわかってきています。