シュンペーターが猛然と反論した理由
ところで、資本主義の不可避的な崩壊を予測した『資本主義・社会主義・民主主義』(*6)に対しては、その出版当時から、これをシュンペーターの「敗北主義」だとして批判する声があったようです。そういう批判に対して、シュンペーターは、同書の第2版の序文において、猛然と反論しています。
敗北主義とは、行動との関連においてのみ意味をもつ一定の精神状態をいう。事実そのものやそれから導き出される結論は、たとえそれがいかなるものであろうとも、けっして敗北主義的でもその反対でもありえない。ある船が沈みつつあるとの報告は、けっして敗北主義的ではない。ただこの報告を受け取る人の精神のみが敗北主義的たりうるにすぎない。たとえば、船員はこの場合に座して酒を飲むこともできる。また船を救うべくポンプに突進することもできるのである。その報告がたんねんに実証されているにもかかわらず、ただ単にそれを否定するような人があれば、そのような人は逃避主義者である。
ここに、シュンペーターの精神の高貴さが表れていると思います。こういう台詞が言える人間に、是非ともなりたいものです。
*1 McCraw(2007,p.182,n.41)
*2 McCraw(2007,p.182,n.41)
*3 McCraw(2007,p.182)
*4 McCraw(2007,p.182,n.41)
*5 Freeman(1987)
*6 J・A・シュムペーター著、中山伊知郎・東畑精一訳『資本主義・社会主義・民主主義』(東洋経済新報社)1995年