JR東海は「対話する」と態度を軟化
拙著『 知事失格 リニアを遅らせた川勝平太 「命の水」の嘘』(飛鳥新社)で詳述したように、リニアトンネル工事現場から100キロ以上も離れた大井川下流域への水環境への影響はほぼないことはわかっていた。
それでも、川勝氏は、県と下流域の10市町長らで「大井川利水関係協議会」を設置して、地域住民の了解を得られるまでは、南アルプストンネル工事に反対する姿勢を堅持した。
2018年夏に2つの専門部会を設置して以降、現在でもリニア工事と大井川の水資源および南アルプスの自然環境の保全の両立に向けて議論を行っている。
川勝氏のあとを受けた鈴木知事も、知事選では静岡空港新駅設置を働き掛けるとしていた。
このため、JR東海の丹羽俊介社長は6月5日の鈴木知事との初懇談で、「静岡空港新駅設置」について「課題はいろいろあるが、静岡県から話があれば、対話していく」などと態度を軟化させた。
ひかり・こだまの増便は「JR東海の都合」でしかない
国交省が静岡県のメリットとして示したひかり、こだまの停車数が1.5倍になることなど、県民のほとんどはメリットとは考えていない。
現在、毎日約200本ののぞみが静岡県内を通過する。ひかりは静岡、浜松の両駅で1時間1本、往復15本程度しか停車しない。
またJR東海は、のぞみの削減を最低限に抑えるためにひかりの大幅な増便ではなく、こだま増便をメインに考えている。だから、「静岡県のメリット」ではなく、JR東海の都合だと県民は考える。
それでは、「静岡県のメリット」はやはり、静岡空港新駅となるのか?
JR東海は静岡空港新駅の反対理由に、静岡―掛川駅間が近すぎることを挙げていた。静岡県内には6駅もの新幹線停車駅はあり、さらにこだまを停車する新駅を造れば、もはや新幹線とは言えなくなる。
もし、静岡空港新駅を造るのであれば、こだまは停車しない、ひかりのみが停車する駅を想定しなければならない。それも静岡県内はどこにも停車しない、東京、京都、大阪だけへ行き来するためだけの新駅となる。
つまり、右肩上がりに増え続けるインバウンド(訪日外国人客)需要に対応するための新駅とすれば、JR東海の理解を得ることができるかもしれない。