政府は現状をまったく捉えていない

このいつまで経っても一向に進まないリニア問題に対して国はどうかというと、岸田文雄前首相に続いて、石破茂首相も2037年の品川―大阪間全線開業の実現を唱えるなど、現状をまったく知らない厚顔無恥な発言に終始している。

実際のところ、静岡工区の未着工が続けば、2037年の品川―名古屋間の部分開業さえ危ぶまれる。

リニアの全線開業に向けて、政府はJR東海をしっかりと指導すると言いながら、あまりにも無責任なのである。

反リニアの旗頭だった川勝氏が退場したのに、なぜ、リニア問題が解決できないのかを検証する。

まず、川勝氏が「静岡県のメリット」をどのように考えていたのか紹介する。

岸田政権が発足した直後の2021年10月6日の会見で、川勝氏は「リニアに対して、一度だって反対したことはない。のぞみ機能がリニアに移ると、ひかりとこだまの本数が増える。従って、リニアは静岡県にとってメリットがある。だから、一度だってリニアに反対していない」と、こだま、ひかりの本数が増えることを「静岡県のメリット」に挙げる驚くべき発言をした。

リニア開通によるのぞみの減便、ひかり・こだまの増便はJR東海の都合であって、静岡県のメリットには当たらないからだ。

ひかり・こだまの増便は「静岡県のメリット」か

ところが、その舌の根の乾かぬうちに、10月6日の同じ会見で、正反対のことを言い出したのだ。

当時の岸田首相がリニア推進を指示したことに触れ、川勝氏は「(岸田政権が)静岡県の流域住民に宣戦布告した」と今度はあまりにも攻撃的なことばに変えた。

「宣戦布告した」ことで、「静岡県民の神経を逆なで」して、「いきなりぶん殴られた」から、県民たちがこぞって怒っているというのだ。

「リニアは静岡県にメリットがある」と言ったあと、同じ口で岸田首相のリニア推進発言をとことんこきおろしてしまった。

川勝氏は、国交省が岸田首相の指示で2023年10月に発表した、静岡県のメリットを示す「リニア開業後の東海道新幹線の停車頻度増加のシミュレーション」に大いに不満を漏らした。

報告書は、「リニア開業によって、のぞみの需要が3割程度減ることを想定して、ひかり、こだまの本数が増えて現状の静岡県内の停車数が1.5倍程度に増える」と予測していた。

静岡県外からの来訪者増など地域にもたらす経済波及効果は1679億円、雇用効果は年約15万6000人と試算された。他にも企業立地や観光交流などが生まれ、地域の活性化につながるとしていた。

川勝氏はこの報告書について、「内容がお粗末であり、あきれた」などと散々にこきおろした上で、「あくまでも仮定だから、実現できるかわからない。お粗末であり、あきれている」「1.5倍にすれば、どれだけになるかと算数の計算を、子どもにさせるようなことを、大官僚組織がやるほどのことか」など「お粗末」を計4度も繰り返して、徹底的にけなした。

それでは、川勝氏がJR東海に本当に求めた「静岡県のメリット」とは、いったい、何だったのか?