『源氏物語』でコントにチャレンジ
時代を超えて読み継がれる古典作品には、アイデアが詰まっています。
『源氏物語』などは、「花散里」「澪標」といった各巻のネーミングだけでも魅力的です。それぞれの巻名が何に由来しているか知るだけでも、この大傑作の並々ならぬ美意識を感じます。
1巻ごとに一人ずつヒロインが登場する仕組みも秀逸です。光源氏は主人公とされていますが、実際には狂言回しのような立ち位置にあり、一人ひとりの女性の境遇や生き方に、物語の本質があります。
『源氏物語』には作者の紫式部が作った作中歌が約800首も収載されています。その力量と仕かけには、ただただ感嘆するばかりです。
『源氏物語』を丁寧に読み進めるのは難しいという人でも、漫画作品の『あさきゆめみし』(大和和紀著、講談社)を読む方法もありますし、ネットで各巻の巻名の解説を読むだけでも結構な学びになります。
私は国語の教師を目指す学生たちに、『源氏物語』を少しでも知ってほしいと考え、2024年はコントにチャレンジしてもらいました。
「今年はNHKの大河ドラマでも『光る君へ』が放映されるから、やるなら今しかないよ。一生忘れない思い出になるから、やってみようよ」
一人1巻ずつ担当を決め、『桐壺』からの54帖をすべてショートコントに仕立てて演じてもらう趣向です。とても1回の授業では消化できず、100分の授業を2回使いました。
「ベース」がしっかりしているから、おもしろい
学生たちは、ちゃんとストーリーを押さえてコントを作ってくれるので、それを見るだけで『源氏物語』を理解できます。しかも、大笑いできます。
光源氏が若紫を見初める場面など、現代の感覚では完全にロリコン犯罪です。見ている学生たちから「気持ち悪い」という声が上がります。最後まで演じ切ったときには盛り上がりが最高潮に達し、どの学生も大満足の表情をしていました。
『源氏物語』のコントを演じてもらい、古典作品の強さを再認識しました。お笑いをやっているわけでもない学生に、ただ「ショートコントを作ってください」といっても、面白いコントを作るのは至難の業です。
けれども、『源氏物語』のようにベースがしっかりした作品ならば、どんなコントに仕立てても面白くなります。私は『論語』もショートコントにしてもらうのですが、『論語』のような教訓に満ちた内容でも、かなり笑える内容に仕上がるのです。
実際の孔子は結構おおらかな人だったといわれているので、本当は孔子が語る内容にはユーモアの要素が多分に含まれていたのかもしれません。いずれにしても、古典はどんなに崩しても重要なエッセンスが残ります。古典はやっぱりすごいのです。