「感動」が感受性を強めていく

国際技能競技大会は2年に一度開催されるもので、世界各国から青年技能者が出場する。工業系職種ではプラスチック金型、旋盤、フライス盤、試作モデル製作、自動車板金、車体塗装、電子機器組立て、メカトロニクス、ITネットワークシステム管理、業務用ITソフトウェア・ソリューションズがある。他に工業系職種だけではなく、和裁、日本料理、レストランサービス、美容、フラワー装飾といったものもある。

学園卒業生には国際大会に出て金メダルを獲った者がいる。入賞した人も数多い。

だが、国内や国際大会で入賞しなくとも、参加者、参加を目指したものは技能五輪への挑戦を通して確実に何かを得る。10代の人間にとって行事、イベントへの参加は感動に直結するからだ。感動した時の心の震えが感受性を強めていく。

人間の成長とは知識が増えることだけではない。体験を経て感受性が豊かになることだ。美しいもの、楽しいことを感じる受容能力が敏感になれば、日々の小さな出来事のなかから美しさ、楽しさを見つけて幸せに過ごすことができる。

さらにひとつ、生徒たちにとって忘れられない「行事」がある。卒業式の後に自然発生したスタンプ会だ。

まじめな生徒がはじける瞬間がある

学園では卒業式の後、会長の豊田章男、おやじの河合満が講堂の壇上に上がり、生徒全員にスタンプを押す。普通は色紙、手帳にふたりのスタンプを押してもらうのだが、なかにはシャツを脱いで背中に押してもらう生徒もいる。周囲はそれを怒ったりはしない。

会長の豊田はにこにこ笑って、背中にどんとスタンプを押す。第三者から見ればスタンプ会は他愛のない些末なイベントかもしれない。だが、18歳の若者にとっては一生、忘れられない思い出だ。卒業式に出席している時は真面目な顔をしているけれど、スタンプ会では笑っている。ひとりがシャツを脱ぎだすと、真似をする者が現れる。

それでも豊田や河合は笑って見ている。そういうところを見ていると、「トヨタはいい会社だな」と感じる。

行事、イベントは参加する生徒よりも実行する学園と教師に負担がかかる。それでも学園は行事、イベントを行う。生徒を成長させるには必要なことだからだろう。

トヨタには「めんどう見」というコミュニケーションがある。新人が入社すると、どこの部署でも「職場先輩」が付く。新人よりも2つか3つ年上の人間が仕事からプライベートに至るまで新人の悩みを聞いて、相談に乗る。

学園やトヨタで「めんどう見」が始まったのは創業してまもなくの頃からだ。学園では豊田工科青年学校が開校した1938年にすでに浸透していた。

めんどう見とは次のようなことをいう。