自立心が高く、モノづくりが好きな子が集まる場所
おやじの河合満は職場で失敗したことでカイゼンの仕方を学んだ。学んだというより、身に染みてわかった。トヨタの人づくり、トヨタの教育とは知識の伝授ではなく、身に沁みさせることにある。だから、失敗を許容する。まず、やらせてみる。叱るよりも見守る。そして、ユーザーの困りごとを解決する。学園でも指導員はトヨタの社内と同じやり方で生徒を教えている。
学園高等部に通うのは中学を卒業してからの3年間。かつては家庭の事情で普通高校には進むことのできない子どもがほとんどだった。だが、今ではそういうケースより、自立心が高くてモノづくりが好きな子が多い。親が「うちの近くの高校に進めばいいのに」と言っても、それを振り切って入ってくる。
日本は少子化が進んでいる。子育て負担を減らすため中学までは義務教育だし、給食も無償化が進んでいる。さらに高校だって地域によっては学費がかからなくなっている。豊かとはいえない家庭でなくとも、高校までは誰もが進学できる社会になっている。
それでも自ら志望してトヨタ工業学園に進学する。年頃の高校生だけれど、彼らは自立している。立派な社会人だ。
そんな社会人たちをますますきちんとした人間に育てているのが学園独特のふたつの教育システムだと思われる。
それが指導員が発案した行事、そして、技能五輪に出るためのモノづくり訓練だ。
なぜたくさんの行事が必要なのか
まず、行事について。
行事の重要性については首都圏に32の保育園を持つコビーアソシエイツグループの代表、小林照男がこう言っている。
「行事は重要です。子どもは行事を体験し、感動することで成長します。感動することで成長していく。だから、うちの園では毎月、行事を行っています。夏には4歳児、5歳児を一泊二日でお泊り体験をさせます。お泊り体験では子どもを午前1時に起こします。『小さな子を夜中にたたき起こすなんてかわいそう』と最初は保護者からクレームが出ました。
だが、夜中に起こしておしっこをさせれば、おねしょをしないで済むんです。お泊りしてもおねしょしなかったことは子どもにとっては大きな感動体験で、自信がつきます。子どもは成長します。そして、子どもの成長を見た保育士たちもまた成長します。保育士と子どもの双方が成長するのが行事なのです」
小林は付け加えた。
「子どもはできないと思ったことに対してあきらめずに挑戦します。鉄棒にぶら下がることができなくても、やれるまで挑戦する。一方、大人はできないことはやりません。すぐにあきらめます。でも、子どもはあきらめない。そこが大人との違いです。子どものことを考えると感動体験をさせたくなるのです。そこで、結果として行事やイベントが増えます。つまり行事が多い学校ほど良い学校になるのです」