滝澤副学長はAO入試の拡大は国際卓越研究大学のためには必須条件である理由をこう説明する。

「国際卓越研究大学になると留学生も増えていきます。18歳までに異なった学習をしてきた人たちが混ざり合う。朝起きて、まず祈りから1日を始める人たちもいます。全く違った発想を持っている人たちが集まることが研究には大事だと思います。同じような教育、同じような解法をずっと学んできた人ばかりでは難しい課題を解決する新しい発想は生まれないでしょう。研究大学にとって、多様性を確保することは生命線です」

首都圏からやってくる「受験秀才」への複雑な思い

今の18歳人口は100万人台で推移しているが2040年代には80万人に減ってしまう。留学生を増やしていかないと優秀な学生を十分に確保できない事態になるだろう。東北大学には現在博士課程で30%、修士課程で17%の比率で留学生が在学しているが、学部の留学生は2%にすぎず、増やせる余地はある。

留学生を学部生としてもっと受け入れるとすれば、日本の教育課程で学んだことを前提とした大学入学共通テストのようなテストではなく、AO入試のような総合的な選抜方法にシフトせざるを得ない。留学生の増加なども含めて全体としては現在の一般選抜入試がゼロに近づいていくというのが東北大学の見立てである。

川内キャンパス
写真提供=東北大学
東北大学川内キャンパス

だが足元の受験現場の傾向をみるとAO入試を増やし、多様な人材を確保するには難所もある。東京大学を含め旧帝国大学などの難関大学で入学者の東京圏出身者の比率が高まっている。小学校時代から塾に通い、中高一貫校を経て、大学に進学するという東京圏の「受験秀才」が存在感を強めているのだ。

彼らは筆記試験の強みを発揮し、一般選抜で難関大学を目指す。その一部の受験生は、合格可能な偏差値を睨みながら、東京大学など首都圏の大学から地方の難関大学へと滲み出していく様子が見てとれる。

東北大学もかつて4割を超えていた東北出身者が今では3割強に減り、関東出身者が4割に迫っている。東北大学のAO入試組が3割と多いとはいえ、依然として7割は一般選抜組である。

小さい頃から受験勉強をしてきた者たちが今の受験競争の勝ち組になるという日本社会の常識が崩れていかないとAO入試を一気に増やすことは難しい。

「受験秀才」は本当に優秀なのか

そもそも「受験秀才」の全てが学術研究に向いているのかどうかは不確かである。すでに紹介したようにAO入試組の方が入学後の成績は一般選抜組よりも優れている。それはAO入試組が東北大学を第一志望としているため入学後の学びに対するモチベーションが高いこともあるが、複数の教員が面接することで研究者としての素質、粘りなどの潜在力を見極められるためかもしれない。