例えばトランプ新大統領が強く主張する孤立外交路線は、基軸通貨としての米ドルの信用力と相容れない側面が大きい。本来、基軸通貨としての米ドルの信用力は、米国が覇権国として各国に米軍を派遣し、国際秩序の維持に貢献しているからこそ保たれている側面が大きい。ゆえに各国は米債を購入し、米ドルの信用力を支えているのである。

それに、今回「ドル離れ」に関税というかたちで歯止めをかけようとしたことが、長期的には新興国による「ドル離れ」をかえって加速させる可能性もある。米国に対して不信感を強める新興国が、トランプ新大統領後を見据えて、長期的かつ戦略的に貿易の対米依存度を低下させていくかもしれないためだ。この蓋然性は低いとはいえない。

また別の角度になるが、トランプ新大統領による財政拡張が米ドルの信用力を削ぐ可能性もある。トランプ新大統領が減税による財政拡張を志向していることから、米債の金利が上昇し、短期的にはドル高要因となっている。しかし長期的には、こうした動きは米債の信用力を低下させ、ドル安とともに「ドル離れ」を促す圧力になるはずだ。

ドル紙幣
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米ドルの利用を制限することの是非

基軸通貨としての米ドルの信用力は、圧倒的な流通量の下で、いつでもどこでもだれとでも使えるという利便性に支えられている。言い換えると、いつでもどこでもだれとでも使えるという米ドルの性質が制限されたとき、米ドルは基軸通貨としての信用力を低下させることになる。この点、米国による制裁措置は「諸刃の剣」だといえよう。

土田陽介『基軸通貨 ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)
土田陽介『基軸通貨 ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)

実際に、ウクライナに侵攻したロシアに対して米国が米ドルの利用を著しく制限したことは、「諸刃の剣」としての性格が強い措置だった。米国の狙いどおりにロシア経済は強く圧迫されたが、一方でこうしたロシアの状況に鑑みて「ドル離れ」を進めようと試みる新興国が増えたことは、当の米国のイエレン財務長官も認めるところである。

いずれにせよ、トランプ新大統領が100%関税をチラつかせたことで、少なくとも短期的には、新興国の間で試みられている「ドル離れ」の流れにはブレーキがかかると予想される。しかし長期的には、そうした圧迫が米ドルの信用力の低下を招き、トランプ新大統領が防ごうとする「ドル離れ」の動きをかえって加速させる可能性に留意したい。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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