ドル離れには短期的に有効と考えられる関税

ここで、2023年におけるBRICSの主要メンバーである5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の国別貿易依存度を比較してみたい。ウクライナ侵攻で米国との関係が破たんしたロシアを除き、BRICSの各国の対米貿易依存度は10%前後(図表1)。ゆえに100%の関税を課された場合、かなりの影響が生じると考えられる。

とりわけ、人民元の国際化というかたちで「ドル離れ」を進めようとしてきた中国にとって、100%関税は脅威といえる。これまでも中国は米国から追加関税を課されるリスクを意識し、対米輸出の伸びを抑制してきた。それでも中国にとって米国は主要な輸出市場であることに変わりがないため、100%関税が発動された場合の影響は大きい。

【図表】BRICSの貿易総額の国別内訳(2023年)
出所=国際通貨基金(IMF)「多国間貿易統計(DOT)」

そもそもBRICSの中で明確に「ドル離れ」を進めようとしている国は、ブラジルと中国、そしてロシアの3カ国だ。それに、ブラジルとロシアがBRICS間で貿易・金融決済を目的とする共通通貨や独自の決済網を構築しようと主張している一方で、中国は自らの通貨である人民元の国際化を進めようとしており、思惑には大きな乖離がある。

他方で、インドや南アフリカは、米国との関係も重視しているため、BRICSによる共通通貨や独自の決済網の構想から距離を置いていている。今年に入ってBRICSに加盟を申請した東南アジア諸国連合(ASEAN)の3カ国(インドネシア、マレーシア、タイ)も米国との関係を重視しており、実際に米国との間で多額の貿易を行っている。

多くの新興国にとって、米国から「ドル離れ」を試みた国であると認定されることのデメリットは、BRICS間の共通通貨や独自の決済網の構想に参加することのメリットを、はるかに凌駕するものである。そのため、新興国間の貿易に双方の通貨や、中国である人民元を用いることに関して、いったんは歯止めがかかることになるかもしれない。

長期的には制裁が逆効果になる恐れ

もとより、トランプ新大統領は、経済的な合理性よりも、自らが重要であると位置付けた政治的な合理性を追求する傾向が強い。今回の「ドル離れ」に対する歯止めも、そうした政治的な合理性の追求に基づくといえる。しかしながら、トランプ新大統領が追求する政治的な合理性は、長期的には米ドルの信用力を低下させる恐れがある。