中国を脅かすようなことはあり得ない

――「有事に狙われるから米軍基地はない方がいい」と言って米軍基地をなくせば、侵攻したい方はやりやすくなり、かえって有事を呼び込んでしまうかもしれませんね。

【千々和】戦争の始まり方にはいろいろなパターンがありますが、例えば第一次世界大戦のケースでは、ドイツ、ロシア、フランスなどがお互いに疑心暗鬼になり「先に手を出さないとやられてしまう」と思い込んだために世界大戦に至ったという国際情勢がありました。

一方、第二次大戦のケースではヒトラーに「周辺国を併合したい」という野心があったにもかかわらず、イギリスとフランスがミュンヘン会議のような宥和的な態度を取ったことで、まさにヒトラーのポーランド侵攻の背中を押すことになってしまいました。

では今、東アジアで起きているのはどういった状況かといえば、第二次世界大戦前のように現状を変更しようと考える勢力があり、ロシアは実際にウクライナへ侵攻し、中国は海洋進出を図っています。

ウクライナ東部戦争最前線
写真=iStock.com/Jakub Laichter
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これに対して抑止力を持とう、備えようと言っているのは、何も日米が中国を屈服させたいがためではなく、中国も含む各国が安定した国際秩序の中で、自由に活動し、繁栄できる状況を保とうとするものです。「法の支配に基づく、自由で開かれたインド太平洋構想」も、まさにそのことを指しています。

その枠組みにおいては、日本の防衛力はあくまでも秩序維持に資するために存在するのであり、中国を脅かすようなことはあり得ません。一方、日米がひるんで抑止力を低下させれば、現状変更側が押し出してくることになります。

今を知るために歴史を学ぶ必要がある

――有事に備えた議論を求めると、一部からは「危機を煽るな」「台湾は日本とは無関係」「中国は台湾に侵攻などするはずがない」などの批判が飛んできます。中には「抑止力名目で、実際には軍拡を推し進めている!」と批判するものまであります。

【千々和】戦争の始まりには様々なパターンがあり、戦前の日本の経験だけがすべてではありません。

もしおっしゃるような批判があるとすれば、戦前のイメージが強烈すぎて、「戦争=日本がしかけるもの」という認識が固定されてしまっている可能性があります。

また、抑止というのは言葉だけではなく、しっかりとした裏付けがあってはじめて成り立つものです。万が一、抑止が破綻した際には抑止失敗となりますが、その先の事態にも対処することができる。翻って、「だから抑止できる(相手は結局日本側に対処されてしまうのでそもそも攻撃を躊躇する)」という話でもあります。

過去の歴史や、軍事に対するリテラシーを高めることによって、今置かれている日本の状況を客観的に見ていくことが必要です。これこそが「歴史に学ぶ」ことなのではないでしょうか。