極東アジアの安定に不可欠なこと

【千々和】著書『日米同盟の地政学』にも書きましたが、特に日米同盟と米韓同盟は東アジアの安定を保つために必要な、双子のような存在です。

千々和泰明『日米同盟の地政学 「5つの死角」を問い直す』(新潮選書)
千々和泰明『日米同盟の地政学 「5つの死角」を問い直す』(新潮選書)

そもそも米軍がなぜ、国連軍という形で朝鮮戦争に参戦・介入したかといえば、日本の安全を守るためでした。韓国が共産勢力の支配するところとなれば、日本が危うくなる。それを防ぐために韓国を防衛したのが始まりで、朝鮮戦争休戦後は、アメリカは韓国と米韓相互防衛条約を結びました。

そして、日米安保条約第6条では在日米軍の使用の目的を日本防衛に加え「極東における国際の平和と安全の維持」と定めています(いわゆる極東条項)。つまり、日本の安全のためには韓国の防衛が必要であり、韓国の防衛のためには日本に基地を置く必要があるということです。

日本と、日本にとって地政学上重要な朝鮮半島、加えて台湾が同じ陣営にグリップされてこそ、日本の安全が確保できるのであり、極東に力の空白地帯が生じるのを防ぐことが地域秩序の安定に資する。こうした考えの源流は明治時代にさかのぼります。

私はこれを「極東1905年体制」と呼んでいますが、1905年とはロシアとのあいだでポーツマス条約が結ばれた年です。同年にアメリカやイギリスも様々な協定や条約で認めたように、実はこの秩序観は現在のものとは少し異なるものの、当時の国際的な承認の中で作られたものです。日本による植民地化を正当化するものではありませんが、こうした秩序が存在したことは歴史的事実といえます。

そして戦前は日本の覇権でこの地域が同じ陣営に属することを担保していました。日本の敗戦によっていったんは流動化するものの、さきほど述べた経緯によって戦後はアメリカによって地域秩序の維持が実態的に引き継がれた、と見ることができるのです。

台湾有事は日本の安全に直結

――日本も参加する枠組みがあることで、地域の安定が図れている。にもかかわらず、「台湾有事は日本とは関係ない」「真っ先に米軍基地が狙われるからなくした方がいい」という意見が出るのはなぜでしょうか。

【千々和】そのような意見があるとすれば、「日本的視点」、一国平和主義的な考えに基づくもので、周辺の安全保障状況と日本が切り離されてしまっています。しかし日本のシーレーンの安定を保つこと一つ考えても、台湾が武力によって日本にとって敵対的な勢力の手に落ちることは避けなければなりません。

アジアの地図
写真=iStock.com/samxmeg
※写真はイメージです

また現在では、日本は自由と民主主義を重んじる台湾を戦略三文書内でも「かけがえのない友人」と位置付けています。

その台湾が「どうなっても関係ない」「有事になるなら、むしろ米軍基地がない方が巻き込まれなくて済む」という話になれば、これは台湾を見捨てるのとほとんど同義であり、果たして正しいといえるのか。

しかも見捨てれば日本が安全になるものでもなく、結果的には日本の安全も脅かされることになります。