メガバンクが富裕層ビジネスを強化

長らく続いた金融緩和による、保有する株式や不動産価値の増加などもあり、日本における富裕層は増加している。スイスの大手金融機関UBSの「グローバル・ウェルス・レポート2024」によると、日本の富裕層(100万ドル以上の資産を持つ成人数)は、282万人に達している(2023年)。

さらに、2028年には28%増の362万人になると予想されており、こうした富裕層をターゲットに、メガバンクや大手証券会社などが、資産運用を中心とした富裕層ビジネスを再び強化してきている。

もっとも、「『何度トライしてもソッポ向かれる』日本のメガバンクの富裕層ビジネスが全然刺さらない3つの残念な理由」(プレジデントオンライン)でも示したように、この先も、①そもそも富裕層は開示しない、②担当や組織がコロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、という富裕層の特性を理解した上で富裕層ビジネスを構築し対応しない限り、富裕層の心を掴むことは難しそうだ。

特に、20億円以上の金融資産をもつような超富裕層は、資産運用だけでなく相続・事業承継などにおいても、担当者・商品・サービスに対する要求水準も相応に高い。商品ラインナップ、人材育成、コストの観点から、対応できない場合も多くなる。

「外商」というアドバンテージ

この点、高島屋をはじめ、三越伊勢丹や大丸松坂屋といった大手老舗百貨店には、「外商」の存在により、メガバンクや大手証券会社に対して、富裕層向けビジネスにおいて、アドバンテージがあるといえる。

外商とは、その名の通り、主に百貨店の外で行われる販売のことである。富裕層の特性を理解する経験豊富な外商担当者が、呉服、宝飾品、美術品、高級ブランド品、歳暮や中元などのギフトといった商品を中心に、富裕層宅や法人取引先まで出向いて商談をする。百貨店内にある「外商専用ラウンジ」の利用や、高級ホテルなどで行われる展示会やイベントもある。

高島屋においても、外商担当者が、富裕層顧客に高島屋で取り扱う商品やサービスの全てを対象にコンサルティング提案を行うだけでなく、顧客との信頼関係を構築し、高島屋ファンを拡大することも目的としている。なお、外商ラウンジ、外商プレミアムラウンジが、日本橋高島屋東館4階に用意されている。また、ポイントタイプ、割引タイプなど外商お得意様クレジットカードも発行されている。

景況感に影響されにくく、今後も増加が見込まれる国内シニア・富裕層は、営業基盤の確保の上でも重要だ。実際、各百貨店の外商は、売上高の20~30%を占めており、利益率も高いとみられる。高島屋をはじめ大手百貨店にとって、外商ビジネスのさらなる強化は必然といえる。

ショッピングをした紙袋を持って歩く女性
写真=iStock.com/miniseries
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