複数がん早期発見検査とは
日本人の死因でもっとも多いのは「悪性新生物」――つまり「がん」です。日本におけるがんによる死亡者数は年々増加しており、近年では全死亡者に占める割合は25%ほど。一部のがんについては検診によって死亡率を減らせることがわかっており、日本では胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、乳がんの検診が推奨されています。また、自覚症状が出てからでも速やかに検査を受け適切な治療を受けることで、がんで死ぬ確率を下げられます。
ただし、がん検査には、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)やバリウム検査などのように一定の苦痛や不快感を伴うもの、CT検査のように放射線被ばくを伴うものも少なくありません。ですから、がんの検査を受けるのが憂うつだという人も多いでしょう。
また、上部消化管内視鏡では胃と食道、下部消化管内視鏡なら大腸と、一つの検査でみることができる臓器は限られます。いくつも検査を受けるのは大変ですから、採血や尿検査だけで一度に複数のがんを発見できれば、どれだけ便利でしょうか。誰だって、苦痛や不快感なく、いっぺんにがん検査ができるなら安心ですよね。私も、そんな手軽で負担の少ない検査があればいいのにと思います。
実際、そのような検査は「複数がん早期発見検査(MCED:Multi-cancer early deteciton)」と呼ばれ、いくつかの種類があり、その一部は臨床試験が進行中です。もしかすると、複数のがん検診が採血一つで済んでしまう時代が来るかもしれません。
cfDNA(循環遊離DNA)検査
現在、臨床試験が進行中の「cfDNA(循環遊離DNA)」を用いた研究の一つをご紹介しましょう(※1)。cfDNAとは、体の細胞が死んだときに放出されるDNAの断片で、血液中に含まれているもの。「がん細胞から放出されるcfDNA」は、「正常な細胞由来のcfDNA」とは異なるパターンなので、採血してcfDNAのパターンを解析することで、がんが発生した臓器や組織型も予測することができます。
この研究では、がんの兆候や症状のない50歳以上の成人6000人以上を対象に、cfDNAの採血検査が行われました。解析可能な結果が得られた6621人のうち、がんのシグナルが検出されたのは92人。cfDNAのパターンから予測されるがんの種類に基づいて診断評価したところ、そのうちの35人ががんと診断され、残り57人が偽陽性とみなされました。陽性的中率は、35÷92=38%です。
陽性的中率とは、特定の検査で陽性判定された人のうち、実際に病気がある人の割合を指す指標のこと。陽性的中率が高ければ高いほど、検査の精度が高いといえます。ですから、この研究結果には期待が持てますし、将来の大規模な臨床試験の基礎となるでしょう。
一方、この研究だけではcfDNAを使った検診が有効だとはいえません。有効性を確立するためには、検診ががんによる死亡率を減らすことを示す必要があります。
※1 The Lancet Journal “Blood-based tests for multicancer early detection (PATHFINDER): a prospective cohort study”