どれも有効性が証明されていない
ちなみに、日本でも「複数がん早期発見検査」の研究が行われています。その一つが、国立がん研究センターが中心となって行っている、血液中の「マイクロRNA」を用いた大規模臨床試験です(※2)。マイクロRNAとは、20~25塩基ほどの小さなRNAのこと。体内にがんがあると、そのがんの種類によって、マイクロRNAのタイプや量が変化することから、がん診断に役立つかもしれないと期待されているのです。
「がん患者群」と「健常者群」を別個に集めた研究では、マイクロRNAが13種類のがんを精度よく区別することが示されましたが、実際にがん検診の対象となる集団においての検査性能の検証はこれからです。まずは、乳がん検診を受ける3000人を対象に研究が始まりました。
こう聞くと、複数がん早期発見検査を受けてみたいと思うかもしれません。でも、現時点では検診として有効であることが証明された検査はありません。有効性が証明されていなくてもいいというなら、いくつかの企業が「少量の血液や尿からがんリスクを判定できると称する検査」を提供しており、自費で受けることができます。
ただし、私はおすすめしません。利益がはっきりしない一方で、偽陽性などの害が明確だからです。がんによる死を減らす効果があるどころか、がん検診の対象となる集団においての検査性能にすら疑問があります。
※2 国立研究開発法人 国立がん研究センター「血液中マイクロRNAがんマーカー 初の大規模臨床試験」
「真の」陽性的中率のおかしさ
そうした検査の一つ「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」は、がん患者の尿に線虫が反応することを利用したものです。テレビCMを見たことのある人も多いでしょう。尿検査だけで15種類のがんがわかり、「従来の検査と比べて非常に高精度である」と企業側は主張しています(※3)。しかし、その主張は科学的だとはいえません。企業側は線虫検査による実社会における「『真の』陽性的中率」は11.7%だ」と主張していますが、じつは実測値ではなく、仮定に基づいた数値に過ぎないのです。
『臨床核医学』2024年9月号の「PETがん検診と線虫検査に関する多施設調査」という報告によれば、線虫検査で高リスクだと判定された1053人のうち、PET/CTによるがん発見例は22例で、陽性的中率は2.09%でした(※4)。こちらは実測値です。企業の主張する11.7%とは、ずいぶん差がありますね。
企業側の言い分によると、PET/CT検査ではがんの見落としが発生するため、「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」の「真の」陽性的中率は実測値よりも高いというものでした。確かに「前立腺がん」や「肝細胞がん」など、PET/CT検査で陰性になりやすいものがあるのは事実です。ただし、それだけでは「従来の検査と比べて非常に高精度」とも「『真の』陽性的中率は11.7%」ともいえません。
※3 HIROTSUバイオサイエンス「「N-NOSE®」の有効性、実社会データで確定、論争に終止符」
※4『臨床核医学』2024年9月号「PETがん検診と線虫検査に関する多施設調査」