「絶対におまえをやめさせてやる」

サイコがそばを通りながらそう言うのを聞いて、俺は内心ほくそ笑みながらワークアウトを続けた。サイコは小柄だが頑丈で、俊敏、強靱だ。でもヘルウィークを無双したって? そんなの信じられないぜ、教官サー

サイコは、上司であるフェーズ1の監督官と目を合わせた。監督官はどこからどう見ても優秀な人物だ。あまりしゃべらず、しゃべる必要もなかった。身長185センチだが、それよりずっと大きく見えた。そしてもちろん、筋骨隆々だった。

冷酷非情な、はがねのように硬い102キロの筋肉の塊。その風貌はシルバーバックゴリラ(SBG)〔ボスゴリラ〕そっくりだ。彼はつねに状況を静かに分析し、頭の中でメモを取りながら、苦痛の親玉のように俺たちの前に立ちはだかった。

「あいつらがガキみたいに泣きベソをかいてやめていくと考えただけで、興奮しますよ」とサイコは言った。SBGは軽くうなずき、サイコは突き刺すような目で俺をにらみつけた。「ああ、おまえはやめるだろうよ」と、サイコは声を落として俺に毒づいた。

「絶対にやめさせてやる」

サイコの脅しは、こういうさり気ない口調のほうが怖かったね。でもあいつは暗い目で眉をつり上げ、顔を真っ赤にして、つま先からはげ頭のてっぺんまで全身を震わせて、金切り声を上げることも多かった。

最もキツイ「波責め」

ヘルウィークが開始して1時間ほどたった頃、サイコは腕立て伏せをする俺の横にひざまずき、すぐそばまで顔を近づけてわめいた。

波打ち際サーフへ行け、この惨めなクソ野郎ども!」

BUD/S開始からもう3週間ほどたっていたから、俺たちは砂浜とBUD/S施設(オフィスとロッカー室、兵舎、教室のあるコンクリートの建物の集まり)を隔てる、4.5メートルの土堤どていを、すでに数え切れないほど乗り越えていた。

「波打ち際に行け」と命令されたら、作業着を着たまま波打ち際に寝転んで全身を濡らし、それから砂を転げまわって、頭からつま先まで砂まみれの状態で、グラインダーに戻る。体から海水と砂がしたたっていると、懸垂はめちゃめちゃ難しくなる。これが「濡れて砂まみれになる」って儀式で、耳と鼻はもちろん、体中の穴という穴に砂が入った。でもこの時は、「波責め」という、特別なしごきが始まろうとしていた。

持久力トレーニング
持久力トレーニング(写真=米国海軍/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

俺たちは命令された通り、空手マスターみたいに叫びながら波打ち際に突進した。作業着のまま腕を組みながら、砕け波の中を進んだ。この日の波打ち際は荒れていた。頭ほどの高さの波がゴウゴウと鳴りながら、3重、4重になって激しく押し寄せ、砕け散る。冷たい水でタマが縮み上がり、波に呼吸を奪われた。