哺乳瓶で牛乳を飲み続ける子ども

北原さん夫妻(仮名)は受託した3歳の子どもが哺乳瓶に興味津々だったので、哺乳瓶で牛乳を飲ませた。約1年半経ったとき、哺乳瓶を気に入って牛乳ばかり飲んで栄養が偏らないか不安になり、哺乳瓶を割ったことにし、「飲みたくなったら、また考えよう」と伝えた。小学4年生のとき、子どもがまた哺乳瓶を使い始めた。吸い口が裂けて牛乳が大量に出るようになったので買い直したら、今度は少しずつしか出ないので口が疲れて使わなくなった。のちになって、「ママ(実母)からミルクもらえなかった」とぼそっと言ったことがあり、今思うと、子どもが満足するまで哺乳瓶を使わせればよかったと思っている。

ミルクの入った哺乳瓶
写真=iStock.com/wsantina
※写真はイメージです

里親による養育の最大の特徴は、これまで繰り返し述べてきたように、子どもを中途から養育することにある。中途養育には児童相談所など支援者からの情報や助言が必要となるが、里親仲間との対話も非常に参考となる。子どもを受託してから地域の里親会に入会し、仲間づくりを始めるのではなく、里親登録と同時に入会し、里親サロンや親睦会の活動を通して知り合いを広げていくことが望ましい。

また、養子縁組を希望する里親同士で話してみると、他とは違う共感や養育上のヒントが得られることもある。子どもの年齢や性別、成育過程などで自分と似たような経験をしている里親と交流することで、大きな気付きが得られる場合もある。

里親会の集まりや他の里親とのコミュニケーションが助けに

哲也さん、恵さん夫妻(仮名)は、5歳の麻美ちゃん(仮名)との施設での交流を終えた。その後、自宅に麻美ちゃんを迎え入れた当初は、とてもおとなしく、年齢相応にできることをさっさとし、食事もしっかり食べてくれていた。

ところがその1週間後ぐらいから、家中の引き出しを開けて物を出すことが始まり、ご飯を食べたと思ったら「何か食べたい」と言い出し、物を出している以外の時間は何か食べているという状態が続いた。恵さんは、最初の2~3日は哲也さんが帰ってくるまでに部屋をきれいに片付けていたが、そうした余裕もなくなった。哲也さんは帰宅後、家の中の状況に戸惑いながらも、研修で聞いた通りの事態に納得していた。

林浩康『里親と特別養子縁組 制度と暮らし、家族のかたち』(中公新書)
林浩康『里親と特別養子縁組 制度と暮らし、家族のかたち』(中公新書)

その後、大人の何人分もの量をひたすら食べ続ける過食と、食べるのに飽き、お茶やお菓子を床にまき散らす行動に移ったが、恵さんが「もうどうにでもなれ!」と麻美ちゃんの要求に応じることで、1週間くらいでそうした行動も収まった。その後に始まったのが、抱っこをせがむ、噛む、叩くといった行為であった。何か気に入らないときに噛みついたり、叩いたり、哲也さんにおもちゃの包丁をもって向かっていったり、外へ出るときにはいつも抱っこを要求したりした。夫婦で「これを受け入れてあげなければ」と思い対応することで、そうした行為も徐々に収まった。

その間できるだけ里親会の集まりに顔を出し、自身の思いを吐き出し、また里親会で知り合った里親と電話やSNS(LINEなど)で気持ちのやりとりをしながら子どもに接することで、自分たちだけで抱え込まずに対応することができた。

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