今後も、物価上昇が続くと予想される中で、個人消費が回復していくには、賃金の上昇が必要になるだろう。連合が6月5日に公表した春闘の第6回集計によると、正社員の賃上げ率は平均で5.08%と1991年以来の高い上昇率となった。
物価の上昇、労働需給の逼迫、企業業績の改善を背景に、大企業を中心とした賃上げの動きが中小企業にも広がっている。これに加え、「年収の壁」を賃金上昇に応じて引き上げれば、パート労働者の労働時間や所得の増加も見込まれ、消費回復の追い風となることが期待できる。
先述の通り、年収の壁が「187万円」まで引き上げられた場合、所得は1人当たり年間で64.5万円増加する(時間当たり賃金は、毎月勤労統計の2023年平均値1279円を使用)。
総務省の「家計調査」によると、パートタイム労働者が多いと思われる所得階層II(世帯年収が500万~638万円)、所得階層III(638万~780万円)では、消費が所得に占める割合を表す平均消費性向は2023年で0.69となっており、所得増加によって消費は1人当たり年間44.5万円増加する試算となる。
「130万円の壁」は非効率で、時代遅れになっている
「年収の壁」を意識して就業調整している445万人の合計では、年間1兆9958億円の消費が増加することになり、この結果、GDPベースの個人消費は0.6%程度押し上げられる。つまり、「年収の壁」を賃金の上昇に応じて「130万円」から「187万円」に引き上げることで、人手不足が緩和するだけでなく、消費回復も見込めることになる。
政府は、人手不足への一時的な対応策として、2年程度の期間で「年収の壁・支援強化パッケージ」を実施しているが、現時点では利用者が就労調整する人の3%程度にとどまっているほか、労働時間の大幅な増加はみられていない。
今後は、2025年に予定されている年金制度改正に向けて、社会保障制度の見直しも含めて議論される可能性が高いが、そもそも、「130万円の壁」が従来のように賃金の上昇に応じて引き上げられていない事実を考えると、人手不足の緩和と所得の増加、さらには消費の拡大という観点からみれば、賃金に応じて「130万円」を「187万円」に引き上げる対策の方が、シンプルでかつ効率的ではないだろうか。