経済を底上げしない成長戦略
今後10年間、公共事業が続いていくにしても、ゼネコンによる建設用重機などへの設備投資や作業員の雇用が劇的に増えるとは考えにくい。また、凍結していたダム建設や整備新幹線も現場は地方である。それが国全体の景気を十二分に刺激できるかは疑問だ。
ところで、成長戦略だが、これも過去10年ほどの経緯を見ていくと、そう簡単ではないことがわかってくる。というのも、2001年以降の小泉内閣から野田内閣までに7つもの“成長戦略”が策定され、推進されてきた。
確かにITや医療といった成長分野は伸びたかもしれない。けれども残念ながら、日本の経済全体の底上げはできなかった。なぜなら、他の産業が景気後退の中で地盤沈下したからだ。
結局、官に依存した補助金や保護政策下での成長産業育成ではだめなのである。やはり、国内産業が成長力を取り戻すためにはイノベーションしかない。幸い日本には中小企業を含めて、技術と人材がある。
ただ、それらが生かされていない。それを成長に結びつけ、付加価値を生み出すモデルが必要である。そして、それはモノづくり+αといっていい。それを成し遂げるのは人しかいないと考えるべきだろう。そうすれば雇用も創出される。
このように、一時的なカンフル剤ではなく、日本の強みを引き出し、それを原動力にしていく成長戦略が不可欠なのだ。それができなければ、いわゆるアベノミクスへの期待が失望に変わったとき、そこに残されるのは世界から置き去りにされた日本の姿でしかない。
※すべて雑誌掲載当時
みずほ総研副理事長 杉浦哲郎
1954年生まれ。富士銀行(現みずほFG)入行。富士総研経済調査部長、みずほ総研チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『病名:【日本病】』など。
1954年生まれ。富士銀行(現みずほFG)入行。富士総研経済調査部長、みずほ総研チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『病名:【日本病】』など。
(岡村繁雄=構成 小倉和徳=撮影)