なぜほかの児相では可能なことが認められないのか

なぜ、ほかでは可能なことが、ここでは認められないのか。支援者がいてもダメなのであれば、どうすれば引き渡してくれるのか。何をどう聞いても「できません」の一点張りだ。

「こうして来ているのだから、せめてお母さんを赤ちゃんと会わせてもらうことはできないのですか?」
「面会を希望するのであれば、事前に予約を入れてください。その場合も、本人か弁護士でなければいけません」

支援者の私は、まるでいないかのような振る舞いだった。日を改めて電話すると、あのとき対応した職員につないでもらうことすらできなかった。

赤ちゃん
写真=iStock.com/kuppa_rock
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日本で働く父親に、生活費の支援を打診するが…

ハーさんは私たちに、資料として1枚の紙を見せてくれた。それは、児童相談所から発行された一時保護の通知書だった。ハーさんの手によって一度はビリビリに破られ、そしてまた彼女の手によってセロハンテープできれいに貼り直され、復元されていた。たかが1枚の紙切れに、さまざまな感情がこもっていて痛々しかった。

ハーさんに聞き取りをするなかで、思わぬ事実も明らかになっている。彼女の父親が日本にいるというのだ。児童相談所からつれない態度を取られてしまった私たちが次の作戦として考えたのは、その父親と連絡を取ることだった。

どうやら宮城県にいて、技能実習3号の在留資格で働いているらしい。ということは、少なくとも3年以上は日本に在住していることになる。勤務先に連絡してみると、雇用主いわく、勤務態度もまじめで安定した収入もあるようだ。

私たちは会社を通してハーさんの置かれている状況を伝え、生活費として毎月10万円を送金してもらうことはできないか、父親に打診した。もし、安定した経済的援助をしてくれる家族がいることを証明できれば、児童相談所も赤ちゃんを返してくれるだろうし、当面の暮らしもなんとかなるだろうと踏んでの提案だったが、これに真っ向から反対した人がいた。ハーさんの母親など、ベトナムで暮らす家族だった。