「中立金利」に向かう政策金利

「中立金利」とは、景気を過熱もしない、また、冷ましもしない金利を言います。中央銀行では、この中立金利を大変気にしていて、政策金利を中立金利に近づけようとする傾向があります。

9月に行われた米国のFOMCでは中立金利は2.9%だというのが出席者全体の平均値でした。このことを考えると、現状4.75~5%の政策金利はまだまだ高いと言えます。インフレ動向、雇用状況やそれらに影響を及ぼす多くの経済指標の今後の発表に影響されますが、3%程度に向けて、今後米国の政策金利が下がっていくものと考えられます。

【図表】米国の雇用状況
筆者作成

10月4日に発表された米国の雇用情勢が、失業率が若干低下し4.1%となったことや世界中のエコノミストたちが注目する非農業部門の雇用増減数が予想より多い25.4万人だったことなど、思ったよりも強かったということがありますが、それでも年内には、あと0.5%程度の政策金利の下げがあると市場では見ている向きが多いと感じます。それにより米国では経済がソフトランディングする確率が高まります。

一方、日本の中立金利は1%という見方が主流です。日銀には総裁、副総裁を含めて9人の政策審議委員がいますが、その中の数人が講演などで中立金利は1%と発言しているからです。このことから見て、日銀内部では1%というのが中立金利の現状のコンセンサスだと考えられます。

日銀が政府の意向をどれだけ汲むか

前述したように、日本のインフレ率はなかなか落ちそうにありません。その点を考えれば、日銀は政策金利をもう少し中立金利に近づけることが必要だと考えていると考えられます。これは、インフレ率の問題だけでなく、金融を正常化することでもあります。いまのままの状態では次の景気後退時に金利を下げる余地がほとんどありません。

また、日本の個人金融資産約2200兆円の約半分は現預金で、このインフレ率と低い金利(0.25%)では、現預金は大きな目減りをしています。そういった意味でも金融を正常化させる必要があるのです。

ただ、ここにきて懸念材料もあります。8月のインフレを考慮した実質賃金が0.6%のマイナスとなりました。給料が上がっていないのです。6、7月は賞与増の影響で、久しぶりにプラスとなった実質賃金でしたが、3カ月ぶりにマイナスとなりました。それとも関連しますが、GDPの半分強を支える家計の支出も8月は1.9%のマイナスとなりました。景気の足腰は弱いのです。日銀は利上げ判断が難しい局面となっています。

さらには、選挙対策もありますが、石破首相が緩和を唱えていることから、日銀はこの先利上げにいつ踏み切るのかは、なかなか判断が難しいと思われます。

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