健康な人の「便」を移植する最新医学

こうした地道な積み重ねが苦手という方に、今後10年で大きく進歩することが予想される最新医学をご紹介しましょう。それが「便移植」です。

便を、移植する?――。そう聞いて戸惑った方も多いかもしれません。そう、腸内環境のよい人から便をもらい、自分の腸内に移植するというものです。

便のドナーは通常18~60歳までの、慢性的な疾患や感染症がない健康な方とされます。また、肝炎ウイルス(A型、B型、C型)やエイズ、梅毒、寄生虫などがないこと、3か月以内に抗生物質を使用していないことなどが求められ、BMIも正常範囲内であることが望ましいとのこと。提供された便は各種のスクリーニング検査を行い、移植して問題ないかを確認してから製剤として加工し、投与するという流れです。

また、移植を受ける方は移植前に抗生剤を服用し、自身の腸内細菌の量を極限まで減らします。そうして健康な人の便を移植することで、新たなよい腸内細菌を定着させるのです。

アメリカでは2022年にFDA(米国食品医薬品局)がこの便移植を承認し、日本においても慶應義塾大学病院が最初に承認を取りました。ほかにも千葉大学医学部附属病院、順天堂大学医学部附属順天堂病院、滋賀医科大学医学部附属病院、藤田医科大学病院、東京大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院などで行われているようです。ただ「認可」でない場合は保険が適用されないこともあり、費用は130万~170万円程度と高額になるケースもある点にはご注意ください。

潰瘍性大腸炎などの指定難病が対象

確認されている効果としては、FDAが最初に便移植を承認した疾患である再発性のクロストリジウム・ディフィシル感染症(腸炎)において、1回目の投与で81.3%、2回目の投与ではなんと93.8%もの治療効果を示したとされています。

FDAは薬の認可等においては、日本の厚労省以上に基準が厳しいですから、これを認めたというのは結構大きなインパクトでした。逆に言うと、やはり、これまでの医療が限界に達しており新しい医療が必要とされているということなのだと思います。

現在、日本でも無認可も含めれば潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、腸管ベーチェット病、偽膜性大腸炎などが対象疾患となっており、多くの病気の治療に使われています。最近、腸内細菌を使った医療技術や医薬品の開発を目的とした、日本初の「腸内細菌叢バンク」も始動したようです。