無期転換の権利が発生する前に、ぴったり5年で更新をやめればいいという考えは甘い。有期契約を繰り返して更新すると、労働者に「更新期待権」と呼ばれる権利が発生し、雇い止めが無効と判断される場合がある。定年後の再雇用にも更新期待権は認められている。いきなりの更新停止はトラブルのもとだ。
では、企業は再雇用後の無期転換を受け入れるしかないのか。労務問題に詳しい向井蘭弁護士は、こう解説する。
「再雇用契約は上限を65歳の誕生日までとして、通算5年を超えて再雇用契約を更新しないことを就業規則と契約書に明記したほうがいい。ただ、契約書も万全ではありません。同じ契約なのに、『Aさんは5年で雇い止め。仕事ができるBさんは65歳を超えても契約更新』と差をつけると、裁判で契約内容が反故にされることがあります」
これは再雇用に限らないが企業が“前門の虎、後門の狼”式で契約を結ばせた場合も危険だ。たとえば今回で契約を打ち切ることをちらつかせながら、次の更新で終わりになる契約を提示すると、労働者は精神的にサインせざるをえない状況に追い込まれる。こうしたやり方を嫌う裁判官によって雇い止めが無効とされる可能性もある。
また改正労働契約法では、5年経過後に無期転換しないことを条件に契約を更新することも無効とされている。
「65歳以上も続けて雇用する場合、企業にできるのは、通算5年経過後の契約更新後に労働者にお金を払って無期転換権を事実上買い取るか、就業規則に“第二定年”を定めておくことぐらいでしょう」(同)