『相棒』のDVDもちゃんと放映順に並べている
しかし、それもやっぱり人それぞれ。視覚以外のどの感覚が深まるのかも、どの程度深まるのかも、人によって違います。深まらない人だって当然います。
バリアバリューに着目することは大切ですが、目が見えないから聴覚が優れている、触覚が優れている、と一概には思わないでください。
また、誤解されやすいこととして、目が見えない人は片づけが苦手と思われがちですが、これもまた人それぞれ。部屋を綺麗にしている視覚障がい者だってたくさんいます。私もその1人です。かといって決して綺麗好きというわけではありません。
片づける理由は単純明快。物がなくならないようにしたり、必要な物がすぐ取り出せるようにしたりするためには、整理整頓しておくのが合理的だからです。
私には一目瞭然がありません。
部屋を見渡せればピンポイントで手に取れる物も、手探りで見つけるしかない。だから部屋にある全ての物の定位置をちゃんと決めてそれを記憶しているわけです。
例えばCDは歌手別・発売順に並べています。DVDもシリーズ物はちゃんと放映順に並べています。
テレビドラマ『相棒』のDVDもそうしているので、再放送をやっていると冒頭のシーンで「これはシーズン4の第2話だ」と分かります。
一緒にいた友人は驚きますが、そうやって憶えておかないと見たいエピソードを探す時にとても苦労するのです。
私たちの「等身大」を理解してもらう難しさ
ただそう聞くと、目が見えない人は記憶力が高いのかと思われるかもしれません。確かに、目が見えない状態で数時間の講演をする人もいるし、実際にブラインドサッカーをやっている人の脳を調べると多人数の動きや位置を記憶する能力が秀でているというデータもあるそうです。
しかし目が見えていても舞台役者は数時間の劇のセリフを丸暗記しているし、駒を使わずに頭の中の棋譜を記憶して対決するブラインドチェスをたしなむ人もいる。
だからやっぱり、みんながみんな当てはまるわけではないのです。
夜空でビルに激突するコウモリもいれば、地面の中で迷子になるモグラだっていてもよいのです。
このことを医学的に考察すると、視覚障がい者の能力が一様ではない理由として、個人差だけでなく、経験の差も考えられます。つまり、見えない世界に慣れている「ベテラン」もいれば、最近その世界に来たばかりの「ビギナー」もいる。
ベテランは、ある程度のことは自分1人でできます。だから助けを望まず1人でやりたがる人も多い。
逆にビギナーは、できることがまだ少ない分、助けを求める人も多くなります。
そういうわけで、サポートする側も、視覚障がい者だから一律の優しさ、一律の支援というわけにはいきません。「見くびらないで」と言ったり、「プレッシャーをかけないで」と言ったり、一体どうしてほしいんだと思われそうですね。
「等身大」を理解してもらうのはそれだけ難しいんだということです。それが人と人が一緒に生きていく上での厄介なところであり、面白さでもあるのでしょう。