「ノー、犬ではない」

この販売者の男は、観光客に対して同じ商品を、「チキンサテ」であるかのように誤解させていたという。7.30が報じた顛末は以下の通りだ。ビーチパラソルの下でくつろぐオーストラリア人観光客の元に、販売員が近づいて話しかける。

販売員「サテです、たった1ドル」
オーストラリア人「何の肉だろうね。これは何、チキン?」
販売員「サテです」
オーストラリア人「チキンサテで、犬ではない?」
販売員「ノー、犬ではない」
オーストラリア人「犬でなければ問題ないよ」

7.30は、「ミスリードされた彼らは、知らず知らずのうちに犬肉を食べるのである」と続ける。

アニマルズ・オーストラリアのホワイト氏は、こう指摘する。「観光客は通りを歩き、サテを売る露店を見かけます。しかし、彼らは露店の看板に書かれたRWという文字が、犬肉を意味していることに気づいていないのです」

バリ動物福祉協会によると、バリ島のおよそ70軒のレストラン・屋台で犬肉が提供されている。

土嚢に詰められ運ばれる犬たち

犬肉の販売は現在も続いている。国際動物保護団体のアニマルズ・インターナショナルは今年、英インディペンデント紙に対し、バリ島で引き続き観光客が犬肉を食べさせられていることを明らかにした。

野良犬や連れ去られた犬が犬肉になっている。AFP通信が配信する写真では、連れ去られた多数の犬の様子が示されている。口輪を掛けられた犬たちが土嚢のような袋に入れられ、首から上だけを袋の外に出した状態で宙づりにされている。数十匹が一度に車両で搬送される。

インディペンデント紙によると、犬肉の需要は高く、多くの犬が街頭やビーチで毒殺されているという。「その他にも、残酷な方法で捕獲され、口をテープで塞がれ、縛り上げられて袋に押し込まれ、運命を待つ」犬もいる、とアニマルズ・インターナショナルは明らかにした。

ルークと名乗る同団体の調査員は、バリの犬肉取引の実態を明らかにするために、4カ月間にわたり潜入調査を行った。彼は豪ABCに対し、「犬が捕まえられ、袋に入れられ、恐怖におののく様子を目の当たりにした」と語っている。

2024年1月6日、食用目的の犬数百匹を乗せたトラックを検査するAnimals Hope Shelter Indonesiaの活動家
写真=AFP/時事通信フォト
2024年1月6日、食用目的の犬数百匹を乗せたトラックを検査するAnimals Hope Shelter Indonesiaの活動家

「犬肉は苦しめれば苦しめるほど美味になる」

アニマルズ・オーストラリアがYouTubeで公開する動画には、野良犬が捕らえられてからビーチの観光客らに売られるまでの顛末がまとめられている。

動画は、ビーチでくつろぐオーストラリア人観光客と、その横で売られるサテの映像から始まる。ビーチの調理スタンドで豪快に焼かれて煙を上げており、何の肉かを知らなければ食欲をそそる映像だ。

しかし字幕は、「ところが(海外客を迎える)ホスピタリティ・ブームに乗り、秘密の取引が加速している」と告げる。映像が切り替わると、島内の観光スポットから離れた路地裏が映し出される。真っ白な母犬が、子犬のそばで怯えている。次の瞬間、人間が捕獲棒を伸ばし、先端に設けられたワイヤーの輪を母犬の首にかけて絡め取る。

犬は2人がかりで地面に組み伏せられ、口輪を掛けられると、四肢を縛られる。映像では次々と犬が捕獲されていく中、ある犬は激しく抵抗したとみえ、すねの骨が露出している。縛られ、不安そうに人間たちを見上げる。子犬たちも捕まえられ、プラスチックの袋に捕獲される。