なぜ黒字でも早期退職を実施しているのか

近年、企業全体の収益状況がしっかりしているのとは裏腹に、“早期退職”を募るわが国の企業は増加傾向にある。これまでは、2008年9月のリーマンショックの発生時など、企業の収益力低下が深刻化して、早期退職を募るなどしてリストラを進める経営者は多かった。しかし、最近、収益が黒字であっても早期退職を実施する企業は増えている。

早期退職を募る企業の狙いの一つは、50代など給与や退職金の支払い負担が大きい世代の割合を減らすことで、全体としての賃上げの持続性を高めることがありそうだ。

朝日が照らす東京
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わが国の少子高齢化の影響で、人手不足はさまざまな分野で深刻化している。有用な人材を確保するためには、どうしても給与水準の引き上げは避けて通ることができない。できるだけ人件費負担を増やさないために、シニア層の割合を減らすことが重要だ。それによって、労働市場から専門性の高い人材を獲得することも目立っている。

対象人数は前年比2倍超の7104人

その意味では、早期退職は国内の労働市場の流動性を高める一つのきっかけになるかもしれない。今回、自民党総裁選でも、ほとんどの候補者は労働市場の改革が必要との見方を持っている。それに伴い、解雇規制の緩和などが政策論争のポイントにもなっている。

卒業一括採用・終身雇用・年功序列賃金の労働慣習を改革して、労働市場の流動性を増やすことは、わが国経済にとって重要な政策課題であることは間違いない。企業経営者の多くは、そうした改革を意識し始めているといえるだろう。

東京商工リサーチの発表によると、2024年1~8月期、“早期・希望退職募集”を実施した国内の上場企業は41社に上った。1~8月期の早期退職の対象人数は7104人、前年同期実績(1996人)の約3.56倍に増加した。2023年の早期退職対象者数(3161人)を上回るペースで早期退職を実施する企業は増えている。

新聞報道などによると、早期退職者募集は幅広い業種で実施されている。繊維、製薬、家電や電子部品などの電子機器、化粧品、総合スーパーなどの小売、日用品、石油などのエネルギー、IT先端分野などに及ぶ。中には、早期退職後のキャリア支援の制度を開始した企業もある。