人事が面談すれば一発で見分けられる「静かな退職者」の口癖
もしこのまま“働かない社員”状態が続けば、第一線から脱落するのは時間の問題だ。
昇進レースで最も厳しいのは銀行業界だ。銀行の人事担当者は「30歳前後で同期の半分が昇進競争から脱落していく。40歳前半に支店長や本店の課長になる時期にさらに半分が脱落する。脱落しても年下の上司に尽くし、それなりにがんばれば会社に残ることも可能だが、そうでなければ40代の早いうちから取引先の中小企業に飛ばされる」と語る。
30代で失速すると、昇進で後輩にも先を越され、40代以降になると本当の筋金入りの働かない社員になってしまう。前出のIT企業の人事担当者は50歳の万年係長が後輩にこう愚痴ったことを聞いている。
「僕らはこれからがんばっても評価がよくなったり、給料が上がるわけでもないしね。逆にこの前の賃金制度改革で減らされちゃったよ。上司の○○君からも『あまり無理しないでください』と言われているしね。仕事が少ないのは、それでいいじゃないかと思っているよ」
もちろん会社や上司のマネジメントの問題もあるが、こうなってしまうと“手抜き感情”が染みついてしまい、再び戦力化するのは容易ではない。
今、大手企業の中には中高年社員の再戦力化に向けたキャリア開発研修を実施しているところも多い。
大手通信会社では中高年向けの「キャリアデザイン研修」と個別の「キャリア面談」を実施している。研修中は一人ひとりの言動を観察し、面談にも活用する。研修の最後には参加者全員に5年後、10年後にどうしたいかについて「キャリアビジョン」を書いてもらう。
面談時間はひとり30~50分。自分はこうなりたいというビジョンを聞き、実現するための短期的目標などを設定するのが目的だ。面談は本人が書いたビジョンシートに基づいて行うが、日頃、前向きに働いている社員なのか、あるいは手抜きして定年まで逃げ切ろうとしているのか、面談すると一発でわかるという。
同社のキャリア開発担当者の実体験だ。
「最初に、この前の研修はどうでしたか、と聞く。『楽しかったです』と言う人は職場でもがんばっている人が多い。逆に『つらかったです』と言う人は『この人はあんまり仕事をしていないな』とわかる。つらかったと言う人にどんな仕事をしていきたいですかと聞いても、『後輩の指導です』とか『上司を補佐します』という決まり文句が多く、本音を言わない人が多い」
会社も働かない中高年を再起動させるために必死だが、中には尻を叩く側の管理職からも働く意欲が減速しているという話も聞く。
建設関連会社の人事担当者は「当社でも文書のペーパレスや業務のデジタル化を推進しているが、以前は若い人が多かった『異動希望』が管理職からも出るようになった。理由を聞くと『デジタル化についていけないので、違う部署に異動したい』と言う。そんな部署はないと突っぱねたが、新しい技術についていこうという気力を失っている人もいる」と語る。
50歳前後で前向きに働く意欲を失っていたとしても、60歳定年、65歳までの再雇用終了までにあと15年も働かなくてはいけない。
また、定年後再雇用になると、管理職も役職を外れ、一兵卒、しかも給与が半額程度に下がるのが一般的だ。
最近、取材先の人事担当者からよく聞くのは、「もう退職金ももらったし、定時に帰れるし、あんまり無理しないで給与に見合った働き方でよいだろう」という人が多いとの嘆きだ。
彼ら中高年の働かない人を放置すれば職場内での反発や軋轢も生まれ、生産性にも悪影響を与えると問題視する人事担当者が多い。さらに定年まで先が長い20、30代の3割を占める「静かな退職」者たちの将来は吉と出るか凶と出るか。年功から実力主義の風潮が強まる中で、「安定した生活」が保障されるとは思えない。