失敗しても次に生かせればいい

このような大改革は一朝一夕に実現するものではない。秀逸なアイデアや有能な人材に恵まれても、それをはぐくむ環境なくして、新事業が日の目を見ることはなかったはずだ。

東邦レオの橘俊夫社長は社員の採用に力を入れる。「学歴や成績は一切無関係。やっぱり大切なのは人間的にちゃんとした人です」。

その成功の陰には、自らが一歩引く形でこの新事業の采配を若い岡崎氏に一任した橘俊夫・東邦レオ社長の存在がある。橘社長は「経営者はやりすぎてはいけません。社員の当事者意識をつぶさないためにね」と笑う。

その考えがよく表れているのが、「社長アンケート」だ。社員が自分の考える事業計画や課題解決策を書類にし、社長に直接提案するもので、すでに20年以上続けられている。これをきっかけに業務改善がなされたり、目標達成後に昇進などの大抜擢が行われたケースもある。社員の自主的な取り組みを奨励し、評価を与える場として機能しているのだ。

「社員の声に社長が直接対応するのも、中小企業だからこそ、できることかもしれません。異質な考え方を即座に否定したり、若い社員の意見に耳を貸さない組織もあるのでしょうが、私はいい提案だと思えばどんどんやらせます。リスクもありますが、失敗しても次に生かせればいいのですから」(橘社長)

同社の「屋上庭園」と「住宅販売」の新事業は、早くも軌道に乗り始めている。成功の要因は、経営資源をモノから人へ切り替え、社員の考えの中にこそ、次代への活路があると定義したことだろう。日頃から社員の当事者意識を引き出す教育を推進し、危機的状況の中で一人一人に「自分が何とかしなければ」と思わせた、「やりすぎないマネジメント」の成果である。

福井県立大学 地域経済研究所所長
中沢孝夫教授のコメント

同社が実現した坪50万円の家は、大手の建築メーカーの坪80万円と比べると非常に安い。

デザインを若い人に任せて、美術館や海外に行かせたりしながら「知らないことを勉強させる」ことも「人材を育てる王道」であると感じる。

【屋上庭園を99万円で】東邦レオ株式会社
本社:大阪市中央区上町1-1-28/事業内容:建築関連事業、緑化関連事業など/代表者:橘俊夫社長/年商:70億円(東邦レオ+イノベーション)(12年度末予定)/従業員:217人
(永野一晃=撮影)
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