海保が操船技術の稽古をつけたようなもの

実に皮肉な話なのですが、海警側も海上保安庁と長年やり合っていく中で、どんどん操船がうまくなっていったのです。結果的に海上保安庁が海警に操船技術の稽古をつけたような形になってしまいました。冗談ではなく、海警をいちばん育てたのは海上保安庁じゃないかというジレンマすら感じます。

以前の海警は時化しけをしのぐための荒天航法という操船技術を身に付けていなかったようで、時化の予兆があるとすぐに帰っていきました。そのため、年間の接続水域内確認日数も前述の通り4~5割程度でした。

しかし、今では時化でもちゃんと尖閣周辺の海域に留まれる操船技術を身に付けたことに加えて、船舶の大型化や組織体制の強化もあって、海警が帰ることはなく、ほぼ毎日接続水域内を徘徊している状況になったというわけです。

ちなみに、以前は海警船が帰ってからも海上保安庁の巡視船は尖閣周辺の海域に留まり、さまざまな訓練を行っていました。しかし、海警が帰らなくなったことから、その訓練の時間を確保することが難しくなってしまったのです。

海保の実力と実績は世界トップクラス

これは実はなかなか困りものです。現場配備とは別枠で新たに訓練時間を設けなければならない上に、その訓練によって現場に空白が生じないよう、応援の船艇も必要になるからです。

海警が尖閣周辺から帰らなくなったことで、海上保安庁側は訓練時間の確保や船艇運用の面でも苦労する状況になっています。

ところで、海上保安庁の実力、特に他国のコーストガードと比較した実力については国民の皆さんにあまり知られていないと思います。

過大評価ではなく、いまや海上保安庁は世界トップクラスの実力と実績を築いています。総合能力的に海上保安庁を上回るコーストガードは世界にそうありません。

操船技術はもとより、海上での犯人逮捕、海賊対応、海難救助、流出油の処理など海上保安に関する幅広い分野で世界トップレベルの能力を有しており、多くのコーストガードにキャパシティ・ビルディングを行う指導者、つまり教える立場となっています。