一人暮らしの限界

義母は、70歳ごろから「線維筋痛症」も患っていた。全身のいろいろな場所に激しい痛みが続くため、痛みで眠れず、睡眠導入剤を常用していた。

「義母は昔からよく歩く人でした。目が不自由になっても、眼科はもちろん、心療内科にも、睡眠導入剤をもらうために片道1時間かけて通っていました。過去にわざわざ講演会を聞きに行って感銘を受けた医師だったので、『通院が大変だろうから、近くの医師を紹介するよ』と言われても、頑なに受け入れようとはしませんでした」

他人から目が悪いことを指摘されるのを嫌う義母は、白杖を持つことを拒否した。

「目が悪いことを理由に、人並みに物事ができないと思われるのは、プライドが許さなかったようです。だから何でもとにかく頑張るのですが、そのせいで社会に迷惑をかけることになり、おかげで家族が『何とかしてください』と叱られてしまうことが多くありました」

しばらくすると、義母は便秘と下痢を繰り返し、週に2度も内科に通うようになっていた。

疑問に思っていた南田さんは、後にその理由に気づく。義母宅の冷蔵庫には、傷んだ食べ物ばかり入っていたのだ。

汚れた冷蔵庫
写真=iStock.com/Photosampler
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「賞味期限には昔からうるさく、目が悪くなってきてからは、買ってきたらすぐにマジックで大きく期限の日付を書いていた義母ですが、かろうじて明暗はわかるというレベルにまで視力が落ちてしまい、賞味期限が切れているのがわからないまま食べていたのでしょう……」

そこまで大変な目に遭っても、誰にも頼ろうとしないことに、尋常ではないものを感じる。

そのうちに義母は、南田さんの実母同様、同じ話を何度もするようになっていった。南田さんが訪問する数時間の間に、5回も6回も同じ話を繰り返す。

意を決して夫に話すと、「俺もそう感じていた」と言う。義弟に連絡すると、義弟も「認知症かもしれないと思っていた」と言った。

そんな時、義母の住み慣れた街に新しく老人ホームができた。視覚障害者の義母でも受け入れてくれるというので見学に連れて行くと、気に入った様子。入所前日は、同じマンションの親しい人たちに自ら「明日から施設に入ることにしました。ありがとうございました」と挨拶して回っていた。