減反廃止はフェイクニュース
なお、減反は廃止されたのではないかとよく質問される。結論から言うと、これは安倍晋三元首相のフェイクニュースである。
2014年農林水産省、JA農協、自民党農林族によって減反政策の見直しが行われた。国から都道府県等を通じて生産者まで通知してきたコメの生産目標数量を廃止するだけで、減反政策のコアである補助金は逆に拡充した。
この政策変更にほとんど関与しなかったのに、安倍首相は政権浮揚のため「40年間誰もできなかった減反廃止を行う」と大見栄を張った。この時、減反を見直した自民党農林族幹部も、大臣をはじめ農林水産省の担当者も、「減反の廃止ではない」と明白に否定していた。面白いことに、2007年に安倍内閣は全く同じ見直しをして撤回していたのである。しかし、2007年当時だれも減反廃止とは言わなかった。廃止ではなかったからだ。
減反廃止が本当なら、米価は暴落するはずだ。農業界は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、永田町はムシロバタで埋め尽くされる。もちろん、そんなことは起きなかった。
後に安倍首相は、私の論文を基に国会の予算委員会で減反廃止を否定する農林族議員との主張の違いを指摘され、「違いはない。私はわかりやすく言っただけ」と発言を撤回した。これは、NHKテレビで中継された。
本当にコメ不足は解消されるのか
農林水産大臣は、8月2日の記者会見で、「収穫の早い産地は、今月には新米が出回り始め、9月からは主産地の出荷も始まります。消費者の皆様方におかれましては、安心していただき、普段どおりにお米をお買い求めいただきたいと思います」と述べている。9月になれば新米(2024産米)が供給されるので、コメ不足は解消されるという報道も見られる。
しかし、そうだろうか?
まず、需給のファクツを押さえておこう。基準年を1昨年の9月から昨年の8月までとして、これに対する生産と需要の変化を見よう。
既に述べたように、昨年の9月から今年の8月までの期間の供給主体となる作年(2023年)産のコメは減反により前年(2022年)産より9万トン少なかった。これに猛暑による精米歩留まりの減少が20万トンであったとすると、供給量は前年に対し29万トン少なくなる。消費について農林水産省は、インバウンド等で11万トン増加しているとしている。
以上から、コメの不足量は40万トンとなる(これは農林水産省が公表している民間在庫量の減少41万トンと符合する)。これを今年産の早期米等で早食いすれば、40万トンの不足は次の期(今年の9月から来年の8月まで)に持ち越されることになる。