日本人のコメ消費量は年々減少している。農林水産省によると、一人当たりの年間消費量はピークだった1962年度から半分以下の51kgまで落ち込んだ。それなのになぜ「コメ不足」が起きているのか。東大大学院特任教授の鈴木宣弘さんは「コメ不足の根本的な原因が改善しない限り、今後も慢性的なコメ不足が続くだろう」という――。
升に入った米と稲穂
写真=iStock.com/kaorinne
「コメ離れ」なのになぜ「令和の米騒動」が起きたのか(※写真はイメージです)

「令和のコメ騒動」政府は「対応しない」と明言

2023年の猛暑の影響や、インバウンド観光客の増加でコメ消費量が増えたことにより、全国的に「コメ不足」が発生、「令和のコメ騒動」だと話題になっている。

実際にスーパーなど小売店ではコメが品薄となり、「お店に行っても買えなかった」という声も多い。

特に関西の品薄がひどく、大阪府の吉村知事は政府に「備蓄米の放出」を要望すると発表している。

政府に「備蓄米の放出」を要望すると発表(上場セレモニーであいさつする大阪府の吉村洋文知事、2024年8月20日)
写真=共同通信社
政府に「備蓄米の放出」を要望すると発表(上場セレモニーであいさつする大阪府の吉村洋文知事、2024年8月20日)

一方、政府はコメ不足対策として何かするつもりはなさそうだ。

坂本哲志農水相は8月27日の会見で「新米が出回るのでコメ不足は9月には解消する」として、政府の備蓄米放出も否定した。

政府備蓄は100万トン程度もある。実際に放出しなくとも、「放出の用意がある」と発言するだけでも、状況を変えられるだろう。なのに、それをわざわざ否定しているわけだ。

なぜ政府は及び腰なのか。理由は2つある。

①「コメは余っている」と言ってきたのに備蓄の放出で「コメ不足」を認めることは、政府の沽券にかかわる。

②そもそも、需給調整は市場に委ねるべきものとし、コメを過剰時に買い上げて不足時に放出する役割は担わず、よほどの事態でないと主食用の放出は行わない方針が決まっているので、「この程度」ではできない、ということだろう。

今回の対応は「政府は何もしない」と宣言したに等しい。「コメの流通の円滑化」を卸売業者などに要請するだけ、子ども食堂へのわずかな備蓄米供出のほかは何もしないと言っているわけだ。

政府が自分たちのメンツしか頭にないようでは農家も国民ももたないだろう。

「コメ不足はもうじき解消」を信じてはならない

毎年7月~8月は、前年に採れた古米と、今年採れる新米のちょうど端境期にあたり、もともと需給が逼迫しやすい。9月になれば新米が流通するのでコメ不足は解消する」は、短期的にはおそらく間違いではないだろう。

ただ、長期的に見ると話は別である。コメ不足は今後も続くと思われる。

近年、日本人のコメ離れが進んでいるといわれてきた。農林水産省によると、一人当たりの主食用コメの消費量はピークだった1962年度(118kg)から年々減少し、2022年度は半分以下の年間51kgまで落ち込んでいる。

コメを食べる日本人は減っているのにコメ不足が起きているのはなぜか。根本的な原因は「減反政策」という「農政の失敗」にあるからだ。

政府が政策失敗を認め、これを是正しない限り、今後わが国は慢性的なコメ不足に直面すると考えられる。