富山の薬売りと同じようにドサ回りの日々

開店屋は1カ月店にとどまり、店の運営を見届けると、別の地方の店に出かける。富山の薬売りと同じようにドサ回りの日々を送っていた。

しかし、パチンコ機の機能の発展やオートメーション化が進展するにしたがい、彼らの仕事が不要になり、開店屋も消えていった。

ここに出てくる釘の調整とは、釘の位置や曲げ具合によって入賞して出てくる出玉を調整することであり、店の売り上げを左右する重要な仕事だった。

釘を調整し、パチンコ玉が飛ぶ方向をコントロールするその道のプロは“釘師”と呼ばれた。しかし、釘師が出玉率が低くなるように釘を調整しても、それを打ち破る客もいた。いわゆるパチプロのことである。釘師VSパチプロは漫画でも描かれた。

手打ち式の時代は左手にパチンコ玉を持ち、わずか10ミリの穴に玉を流し込みながら弾く。甘い釘を見極めて狙いをつけた穴を的に打ち込んでいく。玉を弾くスピードと流し込むリズムが重要であり、客の技量が大きく左右した。当時は1分間に130発以上打ち込むパチプロもいたという。釘を見抜いて荒稼ぎするパチプロ、それを防止しようと対抗する釘師の戦いは、パチンコ機の技術革新によって終止符が打たれる。

チューリップなど役物と称される入賞穴全盛時代から、ドラムの「7」が3つそろうと大当たりになるオール7などゲーム性が飛躍的に向上する。それらは同時にコンピュータ制御による出玉率の設定を可能にした。

パチンコ機にIC基板が埋め込まれ、入賞確率を自動的に管理する時代になった。当然ながら釘師の役割は半減し、釘の調整は従業員で事足りるようになり、職人技を持つプロの釘師はいつしかいなくなった。

出玉率をコンピュータで自動的に調整できるということは、どんなにパチンコの技量が高くても大当たりが出るか出ないかは機械しだいということになる。

溝上憲文『パチンコの歴史 庶民の娯楽に群がった警察と暴力団』(論創社)
溝上憲文『パチンコの歴史 庶民の娯楽に群がった警察と暴力団』(論創社)

パチンコ機を見ただけで入賞確率が高いかを見極めることは不可能だ。技量の介入の余地がない機械は偶然性に期待するしかない。釘を見て本人の技量で勝負することはできない。パチプロをパチンコで生計を立てている人と定義するなら、コンピュータ制御の時代になり、明らかに減少したといえる。

パチンコで稼いでいる人がいるとすれば、店内の客の出玉の状況や「サービス台」と呼ばれる入賞確率の高い機械がどれかを予想するしかない。こうなると、競馬や競輪の予想屋と変わらない。それだけパチンコの賭博性が高くなったといえるだろう。

パチンコ産業の仕事に従事した人、またパチンコで生計を立てていた人たちがいた昭和の懐かしい時代。他の産業と同じように技術革新によって今では失われた職業も少なくない。

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