朝日新聞のような100年以上生き残ってきた媒体の役割
【大澤】ですが、とるべきはそっちではないはずです。かつてなんとなく成立していた知的中間層という幻想をいったんリセットして、新しい知的読者層を括り直すべく、今本当に必要な記事が何かを考えないといけません。いや、こんなことは、新聞社の人たちであれば気づいていないはずがない。だからこそ、記事への過剰ともとれる反応があったのではないでしょうか。
【西田】おっしゃる通りだと思います。
知的中間層を何とか押しとどめるためには、エモい記事ではない、この層が読むきちんとしたコンテンツや媒体が必要です。ネットでは日々新しい媒体が生まれてはいますが、信頼性で言うといささか心もとない。しかし朝日新聞のように100年以上の歴史の中で生き残ってきた媒体は、まだまだ果たせる役割がある。今はDXに苦戦していますが、これをうまく着地させなければならない。そうでないと新聞社自体が消滅するし、知的中間層はもう活字を読まない層に移行してしまうでしょう。
「石丸現象」の根元にあるイメージ政治への危惧
【西田】すでにYouTubeやTikTokのようなショート動画に流れ始めていて、人々はテキストを読まなくなってきている。この事態を非常に懸念しています。
こうした流れは既に政治にも影響を及ぼし始めています。ぼく自身、これまでにも折に触れて指摘してきたことですが、政策についての議論や理性的な説得ではなく、イメージで人々が動員されてしまう状況を「イメージ政治」と呼んでいます。まさに今、このイメージ政治が都知事選の「石丸現象」で立ち上がってきたのではないでしょうか。
都知事選で2位につけた石丸伸二さんが掲げた「政治刷新・都市開発・産業創出」という三つの柱は、実は安芸高田市の市長選の際に掲げたものと一緒なんです。2700人の地方の小さな自治体と、国家レベルの1400万人の大都市・東京都で同じ公約を掲げるというのは、かなり問題があります。
しかし動画でのイメージや、「何度も動画が再生される」ことによる単純接触効果で、政治に関心がない人たちからの得票につながった。蓮舫陣営も実は同じようなことをやっていて、若いクリエーターを巻き込んでダンスの動画を流したり、ショート動画を使ったりとイメージ政治による動員を期待していた点では狙いが重なっています。