日本の防衛上の最大の弱点とは何か。国際法・防衛法制研究者の稲葉義泰さんは「防衛上のシステムも兵器も揃った。法律上の問題もない。あとは為政者の決断だけだ」という――。(前編/全2回)(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
見出しに踊る「防衛力強化」の文字
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相手のミサイル発射拠点を叩く「反撃能力」の大きな意味

――2022年12月、政府は、防衛費の大幅な増額や反撃能力の保有などを盛り込んだ新たな「安保3文書」(「国家安全保障戦略」・「国家防衛戦略」・「防衛力整備計画」​)を決定しました。

【稲葉】そのなかで注目すべきは相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」です。これは、これまで国会で長く議論されてきたものです。政府は「反撃能力の保有は国際法上も、憲法上も許される」としながらも、世論の反対を考慮して実際にその能力を持つことはしてきませんでした。

状況が変わったのは、2020年に退任後の安倍元総理が反撃能力について問題提起してからです。その後、菅政権、岸田政権が着々と準備を進めてきて「能力の保有を目指す」ことを決断し、2022年末に文書に書き込んだという流れになります。

反撃能力の保有は北朝鮮の核・ミサイル能力の向上に対抗するものであることはもちろんですが、中国の軍事力の拡大を意識したものでもあります。ミサイルの数で言えば、圧倒的に中国の方が多く保有していますから。

――しかし今なお、誤解に基づく解説や「相手のミサイル発射の兆候をとらえた時点で敵基地を叩くというが、そんなことは不可能だ」「それは事実上の先制攻撃だ」といった反対の声があります。

「ともすれば先制攻撃になりかねない」との問題点については政府も把握しており、よく見ていただくと「安保3文書」にもきちんと明記されています。

文書中に〈我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合〉とあるように、認められるのはあくまでも「反撃」です。