※本稿は、長内厚『半導体逆転戦略』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
的外れな「技術信仰」に縛られた日本企業
日本の開発研究者は、と言うより経営判断も入りますから、日本の企業は、と言ったほうがよいのでしょう。とにかく日本の企業は、「新しい技術で性能の良いものさえつくっていれば、消費者は必ずついてきてくれる」という技術信仰の呪縛から長く抜け出せずにいました。つまり、技術面でのトップに立っていさえすれば成功すると思い込んでいる会社がほとんどだったということです。
その信仰がいかに的外れであるか、について述べることにします。
ソフトバンクが携帯電話事業に乗り出した際、携帯電話キャリアでは3番手だったのですが、先行のNTTドコモとau以外にビジネスで儲かるキャリアはないだろうと言われていました。しかし、新規参入のソフトバンクは切り札を手にしていました。iPhoneの独占供給権です。当時の日本では、iPhoneを手に入れるためにはソフトバンクの携帯電話に加入するしかありませんでした。
iPhoneを手に入れられないNTTドコモやauは、携帯電話メーカーにiPhoneより高性能のスマートフォンをつくるよう要求しました。それを受けた日本のメーカーは、要求どおりiPhoneより高機能・高性能のスマートフォンをつくったのですが、ここでの注目点は高機能・高性能という点です。つまり、iPhoneにない機能があるか、あるいは処理速度が速い、バッテリー容量が大きいなどというより高い性能があるかという話です。
日本メーカーがiPhoneに惨敗したワケ
しかし、消費者が求めるiPhoneの価値は、そうしたものではありません。デザインはもちろんiPhoneというブランドや、気持ち良くかっこいい操作性にも魅力を感じているのです。それなのに機能・性能が他よりも優れていれば、つまり機能的価値さえ高ければ売れるに違いないと考えるのが、日本のメーカーだったのです。
iPhoneに対抗するスマートフォンを発売した際、当時のNECの社長が「機能・性能、全方位どこから見てもiPhoneより上回っている。これで負けるはずがない」と宣言していました。結果は惨敗でした。
テレビも同様です。常に高画質・高機能であることが必要、下手に安っぽいものをつくってはいけないというようなことばかりを考えて、どんどん自らのマーケットを小さくしていってしまいました。白物家電にもインターネット機能を付けるなど多機能を施し、スマート家電なども高機能製品をどこよりも早く開発してつくる。しかし、肝心の消費者がそんな機能は求めていないので、開発の労力が価格に反映されません。
日本の家電でいま好調なのはどこでしょうか。機能的には平凡だけれどもデザインと価格がこなれたアイリスオーヤマのようなメーカーが成長しているのです。