TSMC×ソニーG×デンソーの半導体製造企業「JASM」

このように、技術的に優れたもの、機能・性能がどこよりも上であることが日本のエレクトロニクスメーカーの長い間のこだわりになってしまっていたのですが、今回のJASMの熊本工場は違います。

技術的には最先端ではなく10年前のものではあるけれど、いまビジネスとして必要とされているものをつくろうとしているところが、従来の日本のエレクトロニクス産業と比べて画期的なのです。特に現在日本がトップシェアを誇るCMOSイメージセンサーに必要な半導体を、そしていま日本が世界に肩を並べる自動車産業を支える半導体をつくろうとしています。

10年前の、22/28ナノプロセスの半導体が世界中で不足し、増産が追いつかないでいるのは、10年前よりもこのレベルの半導体の需要が大幅に伸びたからです。

自動車用の車載コンピュータのことをECUと言いますが、かつては半導体などまったく使われていなかった自動車に、電子制御技術が入るようになったことで使われ出し、次第にその数を増してきました。現在は1台の自動車のなかで100以上のECUが同時に動いていて、もはや大量の半導体なしでは自動車は動きません。さらには自動運転技術の進化もあって、各種のセンサーや制御用の半導体需要も増えているのです。

JASM熊本工場
JASM熊本工場(写真=Keeteria/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

最新の技術より、10年間安定して供給される技術

しかも先に述べたように、自動車に必要とされる半導体は常に新しい技術である必要はなく、むしろ10年間安定して供給される技術のほうが大切なのです。

ある日本のエレクトロニクスメーカーの車載事業部長だった人の話を紹介します。エレクトロニクスメーカーとしては自動車メーカーに、当然新しい技術の良さを説明する。すると自動車メーカーの購買担当者は、「いや、必要以上の性能や機能などはいらない。我が社が最低限必要としているスペックがあればいい。それよりも、品質よく長持ちして、しかも10年以上きちんとつくり続けてくれるのなら買う」と言われたそうです。

日本は、エレクトロニクス製品を次々と新しい商品に置き換えてしまいます。液晶パネルを例に取っても、当時は日進月歩だったので、1、2年おきに次々と新しい規格のパネルが出てきていました。新しいパネルが出たとたん、古いパネルはもう生産しなくなります。そうなると修理用の在庫もなくなるわけです。