行き過ぎた楽観主義の人は、将来をきちんと考えられない

ではいよいよ、本書のテーマである「努力」、そしてその結果としての成功と、楽観主義の関係性について見ていきましょう。楽観主義が、日常や人生における様々な意思決定に影響していることを実証的に明らかにした研究があります。

様々な意思決定とは例えば、労働時間や退職のタイミング、貯金、クレジットカードの利用、資産運用、結婚や離婚などのことです。

結婚式のカップル人形、家と車
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まず全体的に見ると、楽観的な人はより長時間働き、退職後も働き続けることを希望し、より貯蓄し、(離婚率と楽観主義の間には関連はないが)再婚しがちであることがわかりました。この結果は、楽観的であるほど「努力」をしているようにも読めるかもしれません。

しかし、この結果は、「楽観的であればあるほど」ということではありません。この研究では、楽観度合いが上位5%の人を「極端な楽観主義」として、それ以外の「ほどよい楽観主義」と区別して分析しています。

両者に差が出たのは、貯金やクレジットカードの利用、資産運用についてでした。ほどよい楽観主義者たちは「貯金はいいものだ」と答え、クレジットカードの残高を毎月完済しており、10年かそれ以上の計画で金融資産の運用を行っていました。

一方、極端な楽観主義者ではこれらの確率が低くなっていました。

つまり、楽観的過ぎる人は「貯金はいいものだ」とは考えていないし、クレジットカードの残高を毎月完済しないし、長期的な計画で資産運用を行っていなかったのです。

これらは全て、将来への備えに関わる行動だといえるでしょう。

要するに、行き過ぎた楽観主義の人は、将来をきちんと考えることができていないといえるのです。

楽観主義と努力量の関係

この結果は、イソップ寓話の『アリとキリギリス』を思い出すまでもなく、私たちの直感にも反しない結果です。というのも、「どうにかなる」精神が強過ぎると、「その日暮らし」のようになってしまうことは想像に難くないからです。

「今がよければそれでいい」というその日暮らしは、未来に向けて努力を重ねることとは対極にあります。

楽観的なのは悪いことではないのですが、将来について考え、それに向けた努力をしようとするときには、普段の自分のやり方とは切り離して考えていくほうがよさそうです。幸運についても同じことがいえましたが、過度の「どうにかなるだろう」は危険なのです。

極端な楽観主義は「楽観バイアス」とも呼ばれ、実際のビジネスにも大きな影響を及ぼしています。

実際に、ベンチャー起業家の楽観度合いが高いほど、収益や雇用の伸びが低いことを実証的に明らかにした研究があります。しかも、この傾向はその起業家が過去に多くの会社を創業しているほど、そして変化の激しい産業であるほど強いという結果でした。

これは恐ろしくも思える結果ですが、どこか納得のいくところもあるのではないでしょうか。経験豊富な人ほど、「きっと大丈夫だろう」という楽観に陥りやすくなる。変化の激しい業界ほど、日々の「努力」が必要となる。

ベンチャーの経営にはたゆまぬ「努力」が必要であることを思えば、楽観主義と努力量の関係が透けて見える結果だともいえます。

まとめると、成功も心身の健康と同様に、楽観主義と関連しているといえるでしょう。しかし、楽観的であればあるほどいい、と煽るビジネス書の教えを「正しかった」と結論付けるのは早計です。

成功を呼び込むのは「ほどほどに楽観的」な場合のみである、という注釈が必要だからです。

楽観主義と成功の関連だけを見ていれば、「楽観主義ゆえにうまくいくこともあれば、楽観主義ゆえにうまくいかないこともある」という揺れた結果が導き出されるでしょう。

その差は、楽観主義の程度から来ています。行き過ぎた楽観主義は「先延ばし」と「刹那的な生き方」の原因になります。うまくいく人の楽観は「ほどほど」なのです。