「週3日以上は8000歩」で死亡率16.4%減

また、先述の研究はいわゆる中等度以上の運動の量の話ですが、もう少しライトな運動であるウォーキングについて、週末しかしなくてもメリットがあるのではないかという話があります。それは2023年に日本から発表された研究(※5)です。

アメリカの成人3101人について、週に8000歩以上を歩いた日数(0日、1~2日、3~7日)によってグループ化を行い、10年間における全ての原因による死亡率と心血管病による死亡率について評価しました。

その結果、8000歩以上歩いた日が1日も達成しなかった人に比べて、週に1〜2日でも8000歩以上を達成した日がある人で死亡リスクが14.9%低く、週3日以上で16.4%低かったということでした。

またこの8000歩という基準についてはその値を6000歩〜1万歩まで変えたとしても結果は変わらなかったということです。

普段は仕事で忙しい人、梅雨時などで雨が多くてなかなか外に行けない時、身体に少し負担がかかるような中等度以上の運動の場合は1週間分をまとめて実施しても普段と変わらない健康効果を得ることができますし、ウォーキングについては週1〜2日でも8000歩以上歩くことで大きく死亡リスクを減らすことができますので、コツコツしないと意味がない! ということはなさそうです。できる日があれば身体を動かしましょう。

糖質制限の本当と嘘

糖質制限については多くの書籍が出版されています。そしてその多くの書籍において、糖質制限がダイエットによいと書かれています。それは事実でしょうか。

まず、糖質制限食のお話をする上で糖質制限とは何を指すのかについて確認しておきましょう。実際、「糖質制限」という言葉にはかなり幅があります。

南京錠でロックされたケージの中にあるクッキーと扉の前面に置かれた野菜と果物
写真=iStock.com/Veni vidi...shoot
※写真はイメージです

論文では炭水化物の摂取量が総カロリーの何%なのかもしくは何グラムという記載がされていますが、研究によってそれぞれは異なります。

例えば炭水化物を総カロリーの50%以下に制限した研究で得られた結果と10%未満に制限した研究で得られた結果は、それぞれ別の解釈が必要です。つまり、実際糖質制限には明確な定義がなく、かなり幅広い概念なのです。

また、令和元年の国民健康栄養調査によると現在20歳以上の日本人における総カロリーに対する炭水化物の平均の割合は56.4%です(※6)。糖質制限食の研究において、糖質制限の効果を説明するために比較される対象の食事が高炭水化物食であることがあります。

その場合、「糖質制限食は○○というメリット/デメリットがある」というのは正確には、「高炭水化物食と比べて」という文言がつきます。

ということは今我々が食べている普段の食事との比較ではないのです。つまり、単純にいま食べている食事から、糖質制限食に変えたところで、その効果は得られるかはわかりません。

炭水化物といっても、ぶどう糖や果糖などの単糖類と呼ばれるものから、でんぷんなどの多糖類、こんにゃくや寒天に含まれるグルコマンナンやアガロースなどの食物繊維まであり、そのどれの話をしているのか、ということも重要です(※7)

たとえば17件のコホート研究に含まれた3万8253人をまとめた報告(※8)では砂糖入り飲料の摂取量が多いほど糖尿病の発症率が高くなるとされている一方、11件のコホート研究に含まれた44万669人をまとめた研究(※9)では高炭水化物食と比べて、低炭水化物食は糖尿病の発症に差はないことが報告されています。

つまり、単糖、2糖類は糖尿病のリスクである一方、炭水化物全体で考えると糖尿病のリスクではないということです。ただ、このような複数の研究をまとめた報告では先述のように低炭水化物食・高炭水化物食の定義がそれぞれの研究でバラバラであることに注意が必要です。