「どうせ辞めていく人材」

私もあるときまでは、一緒に働く人たちが「この先どうなる人か」を注意深く観察しているほうではありませんでした。

それがメーカー勤務時代に、上司の述べた一言をきっかけに変わったのです。

私はその上司から、私のグループのメンバーたちに対して、それぞれ「こんな教育や指導をするように」と、頻繁に事細かな指示を受けていた時期がありました。

その日も、残業の多い社員について、仕事の進め方を改善して、要領よく業務をこなさせるよう指示がありました。仕事はずっと続くものなので、本人が参ってしまわないようにすべしと言うわけです。

そして、その話が終わったとき、上司は突然、「あっ、それからT(同じく私のグループにいた若手社員)は、いくらいじめても大丈夫だから」と言ったのです。

私が耳を疑って聞き返すと、上司は「あいつはどうせ、そのうち辞めていくから。いくら残業させても構わん」と話したのです。

いじめるというのは、いわゆる「いじめ」の行為を指すのではなく、大事に扱わなくても大丈夫という程度の意味でしたが、私は上司が「Tはどうせ辞めていく人材」と述べたことにハッとしました。

私はそんなことを意識して考えたことがなかったのですが、言われてみると、確かにそう思えたからです。

解雇されたビジネスマンのイメージ
写真=iStock.com/Charnchai
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仕事が好きという感じが見えない

Tは、この上司から頼りにされておらず、売上高の高い大事な顧客は任されていませんでした。片手間で受け持つような顧客や地域ばかりを割り当てられていたのです。

これをきっかけに私は、大事な顧客や地域を担当する社員は、やはり頼りになる人材であること、上司たちはそれを考えて人材の配置をしていることを、はっきりと認識するようになったのです。

驚いたのは、それから1、2年経った頃でしょうか。Tが本当に退職したのです。上司が言った通りになりました。

Tは誰にいじめられたのでも、不当に扱われたのでもありません。また、本人に協調性がないといった類の問題があったわけでもありません。

Tは、ただ仕事が好きという感じではなく、積極的に業務にたずさわってリーダーとなっていくようには見えず、それ故に期待されず、重宝されていなかったのです。