シニア選手が伸び悩んでいる現実とその理由

近年の日本勢の800mの伸び悩みはスパイクの進化にうまく対応できなかった面もあるだろうが、純粋に高校卒業後にうまく成長曲線を描けていない部分が大きい。

2020年末時点の高校歴代10傑を調べてみると、高卒後に自己ベストを更新できたのは、男女とも10人中6人しかいないのだ。

女子を見ると、自己ベストを更新できた6人のうち、久保瑠里子の2秒54が最大の短縮だった。他の5人は2秒以上塗り替えることができていない。高校記録保持者だった塩見綾乃(岩谷産業)は今年7月20日の大会で日本歴代5位の2分01秒93で優勝。実に7年ぶりとなる自己ベスト更新だった。

男子は高校記録保持者から日本記録保持者になった小野友誠と川元奨が高校時代の記録を3秒弱更新している。しかし、ふたりとも大学卒業後は記録を伸ばしていない。

日本はインターハイという熱狂的な舞台があることもあり、高校時代のレベルが非常に高い(他国よりも高校時代にハードな練習をしている学校が多い)。そのため、高校時代(特に女子)のような熱量で競技に向かえていない選手が少なくない印象だ。10代で燃え尽きてしまい、伸びしろが消えてしまう。そんな指摘をする関係者もいる。

また女子の場合、800mと相関する400mのレベルが大きく低迷しているのも理由だろう。今季の400mの世界リストでいうと、日本人最高はフロレス・アリエ(日本体育大学)の427位。女子400mハードルの世界記録より3秒近くも遅いのだ。すべてのトラック種目に共通することだが、スピード面でかなり遅れをとっている。

男子の場合は「駅伝」が“弊害”となっている可能性がある。高校時代に800mで好タイムを残しても、大学進学後に注目度の高い「箱根駅伝」にシフトするケースが少なくない。もちろん、目指すのは個人の自由だが、中距離に集中していれば世界を狙えた選手が大学で中途半端に終わってしまう例があるのは残念なことだ。

800mは最初の約100mは決められたレーンを走り、バックストレートからオープンとなる。短距離種目に近いスピードで走りながら、位置取りのバトルもあり、「走る格闘技」ともいわれている。スパートのタイミングなど瞬時の判断が必要で、かなり頭も使う。そのためキャリアがものをいう種目だ。

10代の久保凛と落合晃。800mで稀有な才能を持つタレントをいかに伸ばしていくのか。日本陸上界に課せられた使命は大きい。来年の東京世界陸上、4年後のロス五輪では800mに出場する選手が現れることを期待したい。

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